ぽんこつな君が可愛いんだ

眉目秀麗。私の同期はその言葉そのものだ。
切れ長の目に通った鼻筋。さらりと流れる髪にすら色気を纏い、男女問わず振り向かせている。
美人という言葉が本当に似合う男である。


「なんでみんな『立花くん』なんかに騙されるのかな」
「なにがだ。おい、文次郎!そのたこわさは私のだ」
「もう1個頼みゃあいいだろうが」

がやがやと騒がしい居酒屋の一角。
私は目の前で行われるお馴染みと言っても過言ではない光景、文次郎と仙蔵のじゃれあいを肴にアルコールを喉へと流し込んだ。
お父さんの言っていた「仕事後のビールは最高」がかなり理解できるようになってしまった。
定期的に開催される同期会、端的に言えば仕事の鬱憤をはらす飲み会だ。
経理課の潮江文次郎、人事課の立花仙蔵、そして営業課の私。
部署は違うが、新人研修で仲良くなり、今もこうして定期的に集まっている。
他にも居たのだが、退職や彼女彼氏が出来たりで残っているのはこの3人だけだ。
言わずもがな、皆独身。そしてつい先日、高校から付き合っていた男に浮気され破局を迎えた私含めフリーである。
遠距離恋愛は私には向かなかったようだ。

「で?なんだ名前。その立花くんなんかとは?」

さっさと言えと催促してくる。
まさにそれだよと言えば、仙蔵は眉をひそめ怪訝な表情を浮かべた。それでも美人とは本当に羨ましい。

「だから、そのギャップだよ。会社での似非王子ぶり」
「似非王子とはなんだ。あれも私だ」
「別にいいんだけど、私への弊害がすごいの!仙蔵のあの表の姿しか見たことない、いたいけな女の子たちが私に橋渡しを頼んでくるの!」

仙蔵は見た目はさることながら、そのスマートな振る舞いからすこぶる人気がある。
男女問わずだが、やはり女性からの支持は凄まじい。イケメン、優しい、素敵、紳士だと。
余談だが、文次郎は会社ではモテない。いや、一部男性からは支持されている、漢気があると。
わかる。顔はカッコいいし、性格も真っ直ぐで男らしい。だがしかしである。
さすがの私も、女の子相手にバカタレはなしだと思うんだ、文次郎。
おっと、話が逸れた。
そんなハイスペ仙蔵とお近づきになりたい女子は多い。しかしだ、仙蔵はガードが堅いのだ。電話番号はおろか、メッセージアプリさえも拒否している。
そこで登場、同期の私である。チャンスとばかりに声をかけられるのだ。
見知らぬ女の子から「これ立花さんに渡して」とアドレスやら電話番号やら書かれた紙を渡される私の気持ちを考えて欲しい。
以前、1回くらいはと女の子からの手紙を仙蔵に渡したら、ひく程不機嫌になった。
可愛い子だったよと言えばさらに機嫌が急降下したため、どうやら見た目うんぬんではなかったらしい。
それ以降、あんな恐い思いはごめん被ると、橋渡しは全て断っている。

「文次郎も言われるでしょ?仙蔵に橋渡ししてって」
「自分で行けねぇならやめろと一喝したら無くなった」

さすが文次郎。私にその勇気はなかったよ。
社内女子の逆鱗に触れては仕事がしづらい。
文次郎のそういうところは好ましく思っているが、一喝された女の子を思うとちょっと可哀想ではある。

「仙蔵はなんで彼女作らないの?」

容姿は言わずもがな、そこそこ大手の人事課エース。会社だけでなく、引く手なんて数多だろう。
仙蔵に彼女ができれば、私はあんな面倒な女の子達のお願いから解放される。万々歳だ。

「なぜだろうな?」
「またそうやっていつもはぐらかす。わかった、実は好きな子がいたりするんでしょ!」

そう言えば、仙蔵が珍しく目を丸くした。
どうやら当たったらしい。
これまで、恋バナなどをしても、何度もはぐらかされていたため、こんな仙蔵はかなり新鮮だ。
嬉しさから、文次郎に話を振るも、反応は薄い。

「え、もしかして文次郎知ってた?」
「ああ、まあな」
「え、私だけ仲間はずれなの」

寂しいなーと口にしながら、テーブルのチャイムを押す。
「どこがだよ」と私の態度に文次郎はつっこんできた。
いやいや、寂しいのは本当だ。私だけ知らなかったなんて思ってもみなかった。同期の絆はどこにいったのか!
鳥の串焼きと追加のアルコールを頼めば、すかさず仙蔵がたこわさを追加注文した。

「で、どんな人なの?」
「なんだ。いやに、食いつくな」

人の恋バナほど楽しいものはない。それにあの仙蔵が好きになるほどの人だ。
気にならないわけがないし、今を逃したら今度はいつ話してくれるかわからない。
一瞬考える素振りがあったため、またはぐらかされるかと思ったが、仙蔵はそうだなと前置きした。
どうやら答えてくれるらしい。

「一言、可愛いだな」
「へー!そうなんだ!文次郎は見たことある?」

そう問いかければ、じぃと私を見つめてきた。
繁忙期後ということもあり、一段と酷い隈である。それはどうでもいいとして、もう酔っぱらったのだろうか。
気を遣い、水を差し出すも「酔ってねぇ!」と怒られた。解せない。
その後も仙蔵を質問攻めすれば、すらすらと答えが返ってきた。これまでいくら聞いても答えてくれなかったのは何故と聞きたくなるほどだ。
もしかしたら仙蔵も酔っぱらったのかもしれない。水を差し出そうとしたが、その前に「いらん」と一喝された。
質問から得られた情報は、同い年、片思い歴4年、相手は仙蔵を好きではない、そしてまさかの会社内だった。

「えー!待って。私分かるかも!」
「ほー?ならば当ててみろ」
「ほら、今日の私、勘が冴えてるから!名探偵名前だよ」

あの秘書課の子か、それとも総務課の子か。
私の記憶にある、可愛い人ランキングを精査していく。
仙蔵を好きではない、を前提とすれば。
はっと閃いた。もしかしたら、既婚者の可能性もある。

「山本シナ秘書課長」
「違うな」
「じゃあ、受付のユキちゃん」
「ハズレ」
「えー?社食のおばちゃん?」
「お前の勘とやらは鈍くて助かる」

馬鹿にしたように破顔する仙蔵に悔しさが募る。
文次郎にもヒントを貰おうとしたが、心底げんなりした顔でこちらを見ていた為やめた。
さっきよりも隈が酷くなってるよ文次郎。

「仙蔵さま、他にヒントは」
「その人は最近、恋人と別れたらしくてな」
「え!チャンスじゃん」

いけいけどんどんだよ、とエールを送れば、そうだなと仙蔵が優しく微笑んだ。
あまり見たことのない笑顔だ。
本当にその子のことが好きなんだなと私にも分かった。

「名前、相談なんだが、どうすれば振り向いてくれると思う?」
「えー難しい質問するね。でも相手の子は仙蔵のこと好きじゃないんだよね?」
「……そうだな。恋愛相手には見られていないかもしれないな」

寂しげに笑う仙蔵につられ、泣きそうになった。片思いって辛いよね。
ああ、私こそアルコールが回ってきているのかもしれない。

「あ、諦めたらだめだよ。好きなんでしょ。
そうだ!この前見たネット記事にね、『初対面で一目惚れしたらプロポーズが一番いい』みたいなこと書いてあったよ!」

いつの間にビールからハイボールにチェンジしたのか、黙って飲んでいた文次郎が急に噎せた。
ゲホゴホと咳き込んでいる。炭酸が気管に入ったのだろう、かなり痛そうだ。
私はそっと綺麗なおしぼりを差し出した。
いや、突拍子もないことを言っているのは私も分かってるよ。
ただ、こんな仙蔵は初めて見たから、何か少しでも手助けになればと思ったのだ。
何気なく見たネット記事だが、たまには役立つらしい。
まあ、当の仙蔵の反応はよくわからないが。
なるほどやら、確かにやら、鈍いからこれくらいでちょうどいいかもしれんやら、ぶつぶつ言っている。
そう言えば、デザート食べてないな。
メニューを開き品定めする。うん、特製プリンもチーズケーキも捨てがたい。
悩んでいると、ぶつぶつモードから復活した仙蔵がプリンとチーズケーキを指差した。

「2つとも頼め、半分食べる」

さすが同期、私のことをよくわかっていらっしゃる。
文次郎はデザートはいつも食べない。
念のため確認すると、わらびもちを指差した。今日は珍しく食べるらしい。
仙蔵が手洗いのついでに注文してくると席を立った。
足も長いとか羨ましい。ふわふわぼんやり、そんなことを思っていると、視線を感じた。

「どうしたの文次郎?」
「いや、頑張れよ」

何を。
そう問おうとした矢先、運ばれてきたプリンに話は途切れ、この話題は流れた。
程よいアルコール、楽しい同期との時間はあっという間に過ぎ、そろそろお開きである。
次はいつ集まれるだろうか。
その時には、仙蔵に恋人がいたりして。
また恋バナできるだろうかとワクワクすると同時に、恋人が出来たらもう同期会には来ないのかもとも考えて、ほんの少しだけ寂しくなった。
これもきっとアルコールのせいだ。




数日後、仙蔵から送られてきたメッセージ。
心配は杞憂に終わり、急な同期会のお知らせが届いた。
いつもよりかなり短いスパンだ。
集まろうと号令をかけるのはいつも私だったため、本当に珍しい。
仕事で嫌なことでもあったのかもしれない。
忙しいが、同期の為だ。私は即座にOKのスタンプを送った。

しかし、店に着いて目にした光景に、私は自分の勘はぽんこつなのだと気づかされた。
いろんな予想が外れに外れていたのだ。
今まで見たことないほど笑顔の仙蔵、その横にはなんとも言えない表情でスマホを構える文次郎。
そして、仙蔵の手元にある赤いベルベットの小さな箱。
さすがにぽんこつ迷探偵の私でも分かる。
人生初の箱パカッまで、おそらくあと数秒ほどなのだと。






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