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 街灯だけが煌々と光る片田舎の夜道で晒された彼の瞳。半水没した洞窟で、揺らぎ、輝く光のような美しい青。醜い呪いたちと対峙し続けたこともあって、徹夜でゆるゆるになったわたしはぽろっと漏らした。

「舐めたら美味しそう。」
 
 自分でもギョッとしてすぐに息を詰めて口を覆った。気まずくて視線も落とす。いくら思考が鈍ってても流石にこれはまずい。
 それにボソリと呟いたつもりが、雪の積もった屋外というのは静寂に包まれていて、存外に響いた。目の前の彼に聞こえぬはずはない。どう考えたって気持ち悪すぎる。ある種のセクハラを働いた罰でうん百年に一人という圧倒的な力で羽虫のようにプチっと潰されるのもやむを得ない。

 逃げ出したいほどの羞恥と罪悪感で包まれているのに、どこから呪いが飛び出してくるかもわからない状況で、自分より格上の五条さんから離れるわけにもいかない。悶々と足元の雪を爪先でほじくった。防水スプレーも噴いてない叩き売りのスニーカーは軟弱で、すぐに溶けた雪が染み出してきてしまった。
「そんなにお腹すいた?明るくなったらごはん奢ろうか。開いてるとしてもカフェくらいだと思うけど。」
「え、」

 恐る恐る顔をあげると五条さんはいつものように飄々としていた。何事もなかったようにアイマスクをかけ直している。冗談で済ませようとしてくれるのだろうか。

「みょうじはご飯派?じゃ、早くからやってる定食屋でも探すよ。」
「五条さんは?」
「僕は両刀。気分に寄る。」
「御三家の出だし、勝手にごはん派だと思ってました。」
「子供の時はそうだったかも。」
「はは、やっぱりそうなんですね。」

 良かった、互いにいい大人で。ちょっとしたしこりを感じながらさっさと歩く五条さんについて行く。雪は積もれどその層は厚い。少々寒いのが難だが、歩行に支障はなかった。

「あ。」
「いで!」

 民家が見えるような場所まで来たと辺りを見回していたら当然五条さんが立ち止まる。完全に油断していたから鼻柱を背中にぶつけて、黒いコートに少しファンデーションが付着してしまった。五条さんとの仕事だからと気合を入れて落ちにくいやつをがっつり塗ったのが裏目に出た。どうしよう、この人お坊ちゃんだし高給取りっぽいし、弁償になったらボーナスの一つや二つは飛んでいってしまう。

「ご、ごじょうさ……。」

 せめてクリーニング代で許してもらえないかと交渉しようとしたら、くるりと彼は振り向いた。

「そこのコンビニ寄っていい?」

 人差し指の先を見ると見慣れた緑と白の外装を、あからさまな居抜き物件に貼り付けた店が建っていた。タバコでも買うんだろうか。いや、この人が喫煙しているのを見たことがない。甘党なんだし夜勤明けのお菓子かな。

「いいですよ、私外で待ってるんで。」
「寒いでしょ?すぐ終わるけど中にしなよ。」
「一回あったかいとこに入ったら出られなくなりそうなんです。」
「ああ、なるほど。」

 納得した五条さんは軽快な電子音をたてて店に入り、3分もしないうちに戻ってきた。
手にしていたのは二つの棒付き飴。

「朝から二つも食べるんですか?」

 あからさまに呆れて苦笑いすると彼は首を振った。

「ちがうちがう、こっちは君の。」
「はぁ。」

 差し出されるままに飴を受け取る。青色だから、多分コーラ味だ。五条さんのことだからプリンみたいな外した味を選びそうなのに意外だ。

「中身の色は違うけど、舐めるならこっちにしなさい。」
「は!?」
「他人の眼球なんてどう考えたって不衛生でしょうが。」
「な、流してくれたんじゃ、」
「何のこと?」

 濡れた爪先は悴むほど冷たいのに、首から上は熱湯に突っ込んだように熱い。言い返したいのに元を辿れば私が悪いのだから罵倒も言い訳も鳩尾あたりでつっかえて出てこない。
そんな私を一瞥して五条さんは満足したようにニヤリと笑って、何事もなかったように歩き出した。

 前言撤回!こいつ、めちゃくちゃ大人気ねー!!



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