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聖杯戦争もいよいよ大詰め。まさか御三家でもないわたしがここまで生き残るなんて監督役でも想像していなかっただろう。もちろん、わたし自身だって。しかし、この結果も偏に、彼のおかげである。わたしは本当に、良いサーヴァントに恵まれた。
「あれ?お嬢、もしかして緊張してます?」
軽口を叩くアーチャーはいつも通り軽薄そうな笑顔を浮かべている。はじめは信用ならなかったこの表情に安心できるようになったのはいつからだろうか。いくつもの死線をくぐり抜け、よくまあ、この短期間でこれほど信頼関係を築けたものだ。我ながら感心する。
「おーい…ちょっと?まさか放心状態でーすとか言いませんよねぇ!?」
アーチャーが目の前で手を振り、はっとした。そう、いまから私たちが向かうのは決戦の地といって過言ではないほどの戦場だ。感傷に浸る暇はない。わたしは、彼を信じて今まで通りに臨むだけ。そう、今まで全てが特別な戦いだった。負ければ命を失うものだった。この戦いも今までと同じ特別な戦いである。そう、それだけ。私たちにはそれだけだ。
「ちょっと、緊張してた、かも……。」
「はー…しっかりしろよお嬢。頭がちゃんとしてないとジリ貧になるぜ?」
「ごめん。すこしだけ、感傷に浸ってたんだ。…もう大丈夫。戦えるから。」
深呼吸をして向き合うと、彼は何か言いたげに瞳を揺らした。
「そーかい。ま、それならいいがね。」
それでも、彼は何も聞かない。普段おちゃらけているくせに、変に優しいところは今でも慣れない。きっと最後まで慣れないままかも。勝っても負けてもわたしたちの終わりは確定しているのだから。もう少し一緒にいたいなんてささやかな望みは叶わない。だって聖杯への願い事は1つ。初めの希望を諦められないわたしには、実現できない夢だから。こんなにいい相棒に出会えたのに手放す期限はすぐそこまできているのだ。
「お嬢。戦いに出る前に1つ、いいですか?」
「え?」
「魔力のパスは滞りなく通ってますけどね、気合い入れるって感じでちょっと余分に貰いたいんですけど?」
「ええ…やだよ。戦う前に貧血になったりしたら縁起でもないし…。」
わたしはさほど優秀な魔術師ではないから、宝具使用後だとか、連続的な実体化が必要になった時みたいに一気にどかっと魔力を使うときは手早く自分の血を経口摂取させていた。ただ、特段血の巡りが良いわけでもないから、その後は貧血になりがちなのだ。もちろん体調不良に影響されて状況判断なんかも鈍くなる。だから、戦いの直前は暗黙の了解で控えていたはずだったのだけれど……。どういう風の吹き回しだろう?わずかに逡巡していると、焦れたようにアーチャーはため息をついた。
「流石に鈍すぎじゃねえの?いや、実はわざとだったりします?まあいいか…失礼しますよ、マスター。」
アーチャーはそしてかがみ、わたしに目線を合わせて……!?
「ん、ごちそうさまでした。」
いま起こった、この、状況を端的に説明するならば。アーチャーがわたしの唾液を、口腔内から強制的に経口摂取した。以上だ。
「まさか、これがファーストキスってわけでもないですよね?……お嬢?」
「ひ、ひとがわざわざ避けようとしたことを……っ!」
さすがにファーストキスではないけれど!でも!弩級のイケメンと顔面接触起こすだなんて一大事だ!心の準備をするために、せめて、せめて一言言っておいてほしいっていうのが普通ではないだろうか?
「わ、ちょ、ガンドは勘弁してくださいって!すいませんでした!!」
は……っ!動揺のあまりアーチャーに対して攻撃体制になっていたらしい。あぶない、あぶない……。不戦敗になるところだった。ていうか、よけないことしやがってこのイケモン野郎…!
「申し訳ない。反省してますって、ホント。でも、しょげてた気分も晴れたように見えますし、決戦前の景気付けってことで……。」
「はぁ!?」
このお調子者サーヴァント!と、続けようとして、はた、と気づいた。そういえばさっきまでの張り詰めた変な緊張感は消え去って、肩の荷が下りた気がする。
「ね?それに、アンタは……あー、まあ俺自身三流だが、一応は一介の英霊が認めたマスターだ。胸を張っていいと思うぜ?さらに加えればけっこういい女。さっきのキスも……そう!俺からの太鼓判って事でひとつ許しちゃくれませんかね?」
そう言って茶目っ気たっぷりに片目をつぶってみせたアーチャーの仕草はやけにハマっていた。なるほど?近隣の村の少女のハートを射抜きまくったと豪語するだけある。故に、癪に触る。
「って!ちょ、なんで殴るんですか!?」
彼はサーヴァントだ。まあ、筋力Eにも満たない一魔術師の拳なんて蚊にさされたようなもんだろう。これくらいの反撃はノーカン、戦力に支障なしだ。どうせ目端の涙も偽物だろうし。
「……ロビン。」
真名を実際に口にしたのは初めてだ。だって、それはタブーだから。加えて言えば、彼は""ロビン・フッド""という概念を成す英霊たちの一人であるから、これさえも本当の意味での真名ではないかもしれない。それでも、一度は呼んでみたかった。聖杯に与えられた職業(クラス)ではなく、"あなた"の名前を。これは最後の機会かもしれないから。
その反応は、というと一瞬顔をしかめたけれど、すぐ諦めたように情けない微笑で返された。人に甘い甘い散々文句をブー垂れるくせに結局自分も甘いんだ。わたしもそこに漬け込んでいるんだからあまり強くは言えないけれど。
「はいはい。アンタに勝利を捧げるために、最後まで。」
そう言って、彼はよりによって騎士の真似事みたいに跪いて手に口付けた。さっきは何かを思う前に離れて言った唇の感触が手の甲から生々しく伝わってくるのが心臓に悪い。ゆったりと動くロビンはぜったいに面白がっている。この不良サーヴァントめ最後まで!しかし、ここで奴の思うツボにハマってしまうのも癪だ。ここは柄にもないけど格好つけてしまおう。
「叶えよう。願いを。」
この先は正真正銘の修羅場。今までのどんな時よりも死ぬような思いをするんだろう。だからこそ、わたしはこの人を信じて、この人はわたしに背中を預けて、精一杯に生きのこってやろう。

title by LAZZARO
如何様にもできる




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