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主人公の名前はアニメと同じ雨宮連にしています
「いらっしゃいませ……あれ、みょうじさん?」
「え、雨宮くん!?」
友達の発表会に持っていく花束を買いに来たら、クラスメイトがバイトをしていた。シンプルなTシャツにジーンズ、無地の黒いエプロンは彼のスタイルの良さをむしろ強調している。イケメンは何でも似合うなあと呆けていたら苦笑いされてしまった。
「やっぱり珍しい?男が花屋でバイトなんて。」
「あ、いやあ、確かにちょっと意外……。」
「はは……。これでもけっこう慣れてきたから花束なんかも作れるんだけど。」
「え、雨宮くんが!?」
ちらりと見た彼の手が器用に花の茎をまとめて色鮮やかな薄紙をくるくると巻くところを想像した。……案外似合うかもしれない。授業中にもなにやら怪しげな道具を作っているし、雨宮くんは相当器用に違いない。
「ところで、今日はどんな花をお探しですか。」
唐突に丁寧語と営業スマイルをぶつけられてびっくりした。雨宮くんってかっこいいから控えめに微笑んだだけでも絵になるなあ……。
「なまえさん?悪い、からかいすぎたか?」
「え、そんなことないよ!いやなんか、かっこいいなーって。雨宮くんって大人っぽいしバイト先でもモテるんじゃない?な、なんちゃって〜はは、ははは……。」
さして仲良くないクラスメイトになにを言ってるんだ私は!?これじゃ若いねーちゃんにセクハラかます親父みたいじゃんか!幸い雨宮くんはスルーしてくれたからいいものを。笑ってごまかす自分がなんだかひどくみっともなく思えて顔が熱くなった。
「花、花屋に来た目的ね、うん。明日ピアノ習ってるっていう友達がコンクールの最終選考らしいから花束の一つでも送ろうと思って。」
「そうだったのか。予算は?」
「二千円くらいまでで、あとは赤が好きな子だから赤い花メインで作ってもらえたら嬉しいな。」
「わかった。ええと、発表会で赤……。」
雨宮くんは少し逡巡してから店内を回って、手際よく何本か花を手に取り戻ってきた。
「やっぱり華やかなものがいいと思うからスタンダードにバラを入れて、同い年の子に渡すっていうことを考えると、かすみ草やガーベラなんかを足して……。こんな感じで、どう?」
低予算なこともあって種類や数は多くなかったはずなのに、彼の手によってちょっと小ぶりな可愛らしい花束ができあがる。きっと色や種類、配置なんかで工夫を凝らしているのだろう。鮮やかな手並みに私はすっかり感動してしまった。
「わ、すごい!立派な花束……!雨宮くんすごい!敏腕店員だよ!」
「そこまで言われると照れるな。そうだ、巻く紙は何色がいい?」
「わたしセンスに自信ないからスーパー店員様にお任せします。」
「了解。せいぜい期待してくれ。……って言っても色選ぶだけだけど。」
「ふふ。」
結局、雨宮くんの選んだのはパステルピンクで、花束は可愛らしく品のある雰囲気のものになった。自分はあげる側だけれど、美しいものを見るとワクワクする。花束を受け取った側からだらしなくニヤついてしまう。あんまりにも嬉しそうなものだから見かねたのか雨宮くんは「次は自分の家に買ったら?」なんて言われてしまった。……まあ今月のバイト代によってはやぶさかではないかもしれない。
雨の夜に花を買おうなんて人は少ないみたいで、閉店に近い時間ということもあってか、さっきから今まで店内は雨宮くんと私の二人きりだ。毎日顔を合わせているというのに、これだけ彼と話をするのは初めてのことだった。席が近いにも関わらず。彼が色々と噂のある転校生だったから、どうしても近寄りがたく感じて初めのうちから関われていなかったことが原因かもしれない。でも、人の噂のなんて不確かなこと。雨宮くんは思ったより普通の同級生で、優しい。あんな噂、もしかして彼のかっこよさに嫉妬した人や告白して振られた女の子が腹いせに流したんじゃないだろうか。初めの方なんてあの鴨志田が関与していたみたいだし。
「そうだ、みょうじさんってこの後急ぎの用事とかはない?」
「え、な、無いよ。」
「良かったら俺の上がりまで待っててもらって送らせてくれない?夜も遅いし。」
「そんな、悪いよ!」
「みょうじさんの家ってどこが最寄り?」
「四軒茶屋だけど。」
「俺もそこ。だから、ついでだと思って。どう?」
なんだか雨宮くんの顔がキラキラしている気がする。眩しい。
さっきの言葉に訂正を加えよう。雨宮くんは普通なんかじゃない。デキる男だ。それに結構押しが強い。
「わかった、待つよ。」
これも笑顔の重圧というものだろうか。NOと言えない典型的日本人のわたしはあっさり了承しまった。
それから、彼の上がりだという時間まで他の店を覗いたりして時間を潰して、合流して……。互いの最寄りだという三軒茶屋まで着いてしまった。電車の中でもこないだのテストの愚痴やテレビの話題なんかで盛り上がって二人の会話は途切れなかった。男の子と一対一で送ってもらうなんて初めてのことで緊張していたのに、彼の気配りのおかげか気詰まりに感じることはなく、それどころか別れの時間が惜しい。このまま別れて、またいつも通り過ごして、それで彼と会話する機会は巡ってくるのだろうか。なんだか寂しい気分だ。
「どうかした?」
知らず知らずのうちに口数が少なくなったか、生返事ばかりしていたらしい。
「ううん、特にはないんだけど、ね。」
面と向かって本人に言うわけにもいかず、歯切れの悪い返事しかできない。なんとなくばつが悪くて正面を向いたとき、ふわりと香った花の匂いに気付いた。
「もう金木犀が咲いてるのか。」
呟いたのは、彼の方だった。あんなに学校を騒がせた事件からいつの間にか二つも季節が進んでいたことに今更気付いた。そろそろ衣替えだ。そして春から今と同じだけ時間が過ぎれば雨宮くんはやがてここからいなくなってしまう。やっぱりまたしんみりしてしまって胸の中がきゅっと狭くなる感じがした。
「そうだ、みょうじさん。」
隣を歩いていた彼が路地を少し入ったところで止まった。
「メッセージ、交換しよう。」
それは思いがけないうれしい提案だった。彼も私同様にこの偶然を好意的に感じてくれたことは私にとって僥倖だった。
「うん。あのね、雨宮くん。」
「ん?」
「私、今日雨宮くんと仲良くなれてよかった。」
素直な気持ちを述べるのは気恥ずかしかったけれど、彼が嬉しそうに微笑んでくれるものだから、羞恥心なんてどこかに飛んでいった。花のほころぶようなその表情はいつもより年相応で、レアなものを見れたものだと得をした気分になった。
「じゃあ、俺も打ち明け話。」
「え?」
「実は、みょうじさんとは前から話してみたいと思ってた。だから、名前も覚えてたんだ。」
「どうして?わたし高巻さんや坂本くんみたいに目立つようなタイプじゃ、……っていうか地味じゃない?」
「あの二人に比べたら大抵の人はい地味になるんじゃないか。見た目も派手だしキャラが濃いから。まあ、いい奴らなんだけど。」
「あ、ははは……。」
「みょうじさんってちゃんと人の顔見て話し聞くだろ?」
「あ〜たしかにそうかも。だけど普通じゃない?叱られてる時とかを除けば。」
「でも、転校してきたばかりの俺に普通にしてくれる人なんかほとんどいなかった。だから、みょうじさんがちゃんと俺の顔を見て話してくれるの、嬉しかった。みょうじさんのこと、いい子だなっていうのはその時から思ってた。だから、今日もつい強引に送るよなんて言っちゃった。」
「え!?あ、そ、そうかな。」
「ああ。」
「はは、あはは……て、照れるわ〜。」
不意打ちの賛辞に同様して雨宮くんの顔が見れない。俯いて熱を持った頬を両手で抑える。一歩間違えば口説き文句のような言葉をどうしてこうもスラスラと言えるんだろう。イケメンって総じて人たらしなんだろうか。
「あのさ、みょうじさん。」
「ん?」
声をかけられては頭をあげるしかない。一瞬で顔に集まった熱はまだ冷えてないから抵抗感があるけれど、せっかく彼の褒めてくれた長所を早速潰すわけにはいかなかった。
「みょうじ、って呼んでもいいか?せっかくだし。俺のことも好きに呼んで。」
「えっ!?」
「嫌だったら無理強いしないけど。」
「そ、そんな、嫌なんかじゃないよ!えと、ええっと……。じゃあ、わたしも蓮くんって、呼んでもいい?」
「もちろん。」
なんだか呼び捨てにされただけで心臓がばくばく言う。あれ、ちょっとまって。止まってくれ私の乙女回路。いくらなんでも、そう、もともと雨宮くん……蓮くんのことをカッコいいなって思ってても、でも、今日一日だけで落ちちゃうだなんてそんな、そんなのってあんまりじゃないか?
「あ、やば!締め出される!悪いみょうじ、急がなきゃいけないから帰るぞ!俺から誘ったのにごめん!今度埋め合わせするから!じゃあな![
「う、うん!またね、蓮くん!」
慌てて振った手を、蓮くんの後ろ姿を見ながら握りしめた。今日の余韻がまだ残っているようで。たぶん、帰宅したら私は嬉々として彼にメッセージを送るのだろう。我ながら単純だな、惚れっぽいな、と少し呆れる。でも、女子高生なんてみんな、単純なきっかけで唐突に恋に落ちてしまう。そんな法則に平凡な私が引っかからないわけなかったんだ。たぶん、きっと、それだけの話。
ありふれた話
2018/1/7