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結論から言うと、三セット目は調子を取り戻した賢治郎が上手く機能し始め、25ー20で負けてしまった。この時点でお互いのセット数は2ー1で、この第四セットを白鳥沢に取られてしまったら私達烏野の負けが確定する。


「バレーでデカい奴が有利なのは事実。そんで今ここにウシワカよりデカい奴はいない。でもリベロには関係ない。唯一奴と対等なのは俺なんです」


徐々に牛島さんのスパイクに反応できるようになってきているも、夕は拾えない自分がどうしても許せないという様子。そんな夕を見て澤村先輩達がごくりと息をのむ。
セットを費やすごとに確実に夕の集中力は上がってきてる。牛島さんのスパイクも拾える回数も増えてきた。これ以上はもう「慣れてくれ」としか言いようがない。
やばいやばいやばい、まだ何の役にも立てていない。自分の調子は良い。落ち着いて周りも見れる。だけど今の白鳥沢に隙という隙が見当たらないのだ。レシーブが乱れたとしても高く上がったトス一つさえあればそれを高確率で決めてくる大エース。夕の言うとおり、この試合でスペック関係なしで牛島さんと対等にやりあえるのは夕だけ…。


「烏養さん」
「どうした朝霧?」
「あ、あの……これは個人的な提案なんですけど月島くんのブロックが予想以上に機能している今なら和久南戦で縁下くんがやったアレをやってみても良いんじゃないでしょうか……?」
「あーー……俺も丁度今それを考えてた」
「今の状況ならやる価値はありますし、無駄な取りこぼしもこれなら減らせますよね?」
「……そうだな。いっちょやるか!!」


コートチェンジの移動中に私が烏養さんに話を持ちかけると、どうやら烏養さんも同じ事を考えていたようで会話の通り、和久南戦で縁下くんがやった守備で一歩下がってブロックアウトのボールを拾うフォーメーションを取り入れることにした。……よし、ちゃんと発言できた。


「試合の状況を考えてそれに合った作戦を練るってことは自分達の状況をしっかりと理解していなければできないことだ」
「……? はい。そうですね」
「朝霧、お前は夏休み前まではバレー初心者だったのにいつの間にか自分で戦況を読み取れるまでに成長している。それがどれだけ凄いことか分かるか?」


「見て、考えて、実行する。バレーでは常に欠かせないことだ。お前はそれを普段無意識の内にやっている。…だから朝霧、よく『見ろ』。白鳥沢を、烏野のを」

────それがお前の進化になる。







「そういや日向、セット間にウシワカに何か言われてなかったか?」

第四セット中盤、ふと思い出したかのように菅原先輩が声を上げる。なんとなくそれに聞き耳を立てていると、菅原先輩の近くにいた山口くんが「あ、」と口を開いた。


「『下手くそなチビに生きる資格はない』だそうです」
「……!?」


日向くんの声を真似しながら山口くんが牛島さんが(恐らく)言った言葉を菅原先輩に伝える。いやそれ絶対被害妄想入ってるでしょ日向くん!!! さすがの天然な牛島さんでもそこまで人を罵倒しないよ!?
どうやらその言葉を聞いた菅原先輩も私と同じ事を思ったらしい。


「ほんとかよ!? 被害妄想入ってねぇ!?」
「俺もそう思ったんですけど意味的にはそうだそうです…」
「それ言われて日向どうすんだろ」


菅原先輩が目を細めて軽く笑う。その視線はコートに立つ日向くんに向けられている。その二人の話をこっそり聞いていたのは私だけでは無かったようで、二人の側に居た成田くんが菅原先輩に「笑うトコっスか!?」と突っ込む。


「いやだって、それ言われて本気で心折れる奴なら今ここに居ねえべし」


その言葉に成田くんも山口くんは「確かに」と頷いた。





月島くんのサーブは選手と選手の間に向かっていき、白鳥沢はレシーブを乱した。それを賢治郎が大平さんにトスを上げる。
すると日向くんが何を思ったのか、ブロックにつくはずが、スパイクの助走に入り始めた。


そういえば前に誰かが言っていた。
────助走こそ 人工の翼だと。


助走を入れたことによって日向くんのブロックの到達点が上がり、大平さんのスパイクは日向のブロックによって阻まれ、ボールは白鳥沢のコートに落ちた。ブロックで点を取った日向くんは目を輝かせながらニシッと笑い、牛島さんと目を合わせる。


「高さで勝負しないとは言ってないっ!!!」


……あぁ、確かに。日向くんは例え「下手くそ」と言われたとしても絶対に諦めないんだな。



しかし、次また同じようにブロックに跳んだ日向くんは勢いがありすぎたせいでそのままネットにぶつかり影山くんにどやされていた。