「ねえ時透くん。炭治郎先輩って私の事本当に好きだと思う?」
「……いきなり何?」
私のその問いかけに後ろの席の時透くんは面倒臭いとあからさまに顔を
読書家で勉強も運動も出来て、尚且つ顔も良い時透くんは学年の女の子の注目の的だ。でも本人は色恋には特に興味が無いらしく毎日のようにされる告白を「無理」の一言で一蹴している。それでも変わらず人気があるのだから時透くんって凄い。
私はそんな注目の的の時透くんと席が前後。ほぼ一方的に私が時透くんに話しかけ、時透くんがそれに仕方なく答えるということを飽きることなく毎日のように繰り返している。私は勝手に時透くんはてっきり女の子が嫌いなのかと思っていたのだが、本人曰く「雌の顔して近づいてくる女子が気持ち悪いだけ」とのこと。「雌の顔」って……。時透くんはとても口が悪い。
どうしてそんな時透くんと私が会話出来ているのかと言うと、私が時透くんに興味が無いということが時透くんにも認められているからだ。なぜ私は時透くんに興味がないのかというと、私にはもうすでに愛しのダーリン♡がいるから。そのダーリン♡とはキメツ学園高等部一年の竈門炭治郎先輩。今年の春、私が偶然炭治郎先輩の家のパン屋さんでパンを買った時にレジで炭治郎先輩に向けられた笑顔に一目惚れしてしまい、それ以来毎日欠かさずパン屋さんに通っていたら炭治郎先輩に認知され、善逸先輩や禰豆子ちゃんの協力を得て二人で会話する機会を設けてもらったりしてとにかくアタックし続けていたら見事告白をOKしてもらえたのだ!
炭治郎先輩はとても紳士的でお付き合いを始めたばかりの時なんて「文通から始めよう!」と言ってきた。文通は文通でしたいから勿論頷いて今も文通しているのだが、そんな紳士的な炭治郎先輩と私が付き合ってからしたことといえば文通と電話とデート二回のそれだけ。キスはおろか、手を繋ぐことすらしていないんです!
周りのカップルは「彼氏とキスしちゃった♡」なんてラブラブな体験を友達に言いふらしたりしているのに、私は友達に話すエピソードのひとつも無い。
しかも!しかもですよ!炭治郎先輩と付き合った時、炭治郎先輩からとある約束をさせられたんです。それは『私達が付き合っていることを周りに言いふらさない』ということ。つまり既に知っている人を除いた人達には炭治郎先輩と交際していることを口外してはいけないのだ。ちなみに時透くんは禰豆子ちゃん情報から伝わっていたらしく既にこの事を知っていた為、私はこうして時透くんには炭治郎先輩のことを話すのだ。炭治郎先輩について話している際の私があまりにもデレデレなのを見て時透くんは私が炭治郎先輩にお熱なことを悟り、私たちはこうして毎日のように話すようになった。
──というのが今までの経緯。
今日私が時透くんに相談しているのは炭治郎先輩が本当に私のことを好いていてくれているのかどうか。炭治郎先輩は優しいから私の告白を断れなくてOKしてくれたのかもしれないとか考え出したらマイナスな考えが止まらなくなって昨日は一睡も出来なかった。
はあ……とため息をつく私の様子を見て、時透くんは私が真面目に悩んでいるということに気がついたのか読んでいた本に栞を挟みパタンと閉じた。そして怠そうに頬杖をつきながら「ならさぁ、」と口を開く。
「炭治郎さんが本当に納豆のことを好きなのか試してみる?」
ちょっと面白そうだから僕協力するよ、と言った時透くんの瞳はどこか生き生きとしている。
私はその甘味な誘いに迷うことなく頷いた。
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『へえ!納豆の方では最近そんなことがあったのかぁ』
「はい!そのときの時透くんがすっごく面白くて、お腹抱えて笑っちゃったんですよ!」
『時透君にもそんな一面があったんだな……。初めて知ったよ』
「私も意外だな〜って思いました」
電話越しの炭治郎先輩の声を聞くのは幸せだけど、もどかしい。話せるのは死ぬほど嬉しいけどやっぱり話すのなら会って話したい。炭治郎先輩の笑顔が見ながら話したいし、電話じゃなくて生の声が聞きたい。炭治郎先輩の優しい声を思い出すだけで幸せすぎる。彼女でいられること自体がもう奇跡に近い事だから尚更。
でも炭治郎先輩は私に「好き」と言ってくれたことがない。私から「好きです」と伝えることはあっても、その言葉を聞いて炭治郎先輩は「俺も好きだよ」と返すことなく「ありがとう」と言って優しく笑い返してくれるだけ。炭治郎先輩の笑顔は好きだから笑ってくれるだけで嬉しいんだけど……やっぱり、先輩の口から「好き」って言葉をちゃんと聞きたい。これって図々しい願いなのかなあ……。
『すまない納豆!これから明日の店の仕込みをしないといけないから電話切るな!』
「は、はい!分かりました…」
『本当にごめんな。じゃあ、おやすみ』
「…おやすみなさい」
ツーツー…と電話が切れた。
まだ頭の中に炭治郎先輩の声が残っている。携帯を握りしめたままベッドに倒れ込む。炭治郎先輩との電話は週に三回。炭治郎先輩は忙しいから電話できても短い時間なんだけど、そんな短い時間でさえも私に割いてくれていると考えると嬉しくてたまらない。
本当に炭治郎先輩が好きなんだ。好きで好きでしょうがない。本当はもっと恋人っぽいことをしたい。でもそんなことを言ったら引かれてしまいそうだし。そもそも本当に炭治郎先輩が私のことを好きなのかも分からないし。だけど好きなものは好きなのだから仕方がないじゃないか。この好きだーって気持ちは収まることを知らないし、炭治郎先輩に本気で拒絶されるまでは私は何度でも炭治郎先輩に「好きです」と言い続ける。何なら、炭治郎先輩に嫌われても私はずっと好きだと思う。そのくらい好き。だから不安になる。
「……ごめんなさい、炭治郎先輩」
私はこれから貴方を傷つけるかもしれない事をします。
脳裏に時透くんの顔が過ぎった。
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「ほら早く行くよ」
「ほ、本当にやるの……?」
「炭治郎さんが本当に自分を好きなのか知りたいんじゃなかったの」
「そうだけど……。もしもこれが原因で別れるようなことになっちゃったら……」
「あー。まあ、そのときは禰豆子とかに協力してもらって皆で話し合えば良いんじゃない?」
「て、適当……」
「別に僕はやらないならやらないでいいけどね。そこらへんは納豆に任せるよ」
「うぅ……!」
廊下の壁に
学校終わりに私達が訪れたのは『炭治郎先輩の家のパン屋さん』。丁度今、この店で炭治郎先輩は家のお手伝いのためにレジで働いているのだ。そんなお店に私達二人で入るということは確実に炭治郎先輩に目撃されるというわけで。まずその段階でハラハラが止まらない。
時透くんが何の躊躇もなくお店の扉を開けると、扉に付いている小さな鐘のようなものがカランカランと音をたてる。そしてお店の中から炭治郎先輩の「いらっしゃいませ!」という明るい声が聞こえてきた。
「あれ、納豆……?」
レジに立つ炭治郎先輩が私を視界に移した途端、炭治郎先輩が私の名前を呼んだ。炭治郎先輩から見たら私の隣には時透くんが立っているように見える。つまり私達が一緒にパン屋に来たと解釈しただろう。
緊張で指が震える。炭治郎先輩が次にどう出るのかを伺っていると、炭治郎先輩はいつもと変わらない屈曲のない笑顔を浮かべて「今日は二人で来てくれたんだ!ありがとう!」と言って私達を快く歓迎した。普段と何ら変わりない炭治郎先輩の様子に私は心の底から安堵した。チラリと隣にいる時透くんに視線をやると時透くんは普段学校で見せないようなキラッキラな笑顔で「久しぶりです、炭治郎さん!」と言って頭を下げた。
私は思わず目を見開く。誰だこの人。知らねえぞ私。だっていつもの時透くんはもっと無表情で笑顔なんて以ての外で、表情筋が動いたとしても怠そうな表情か眠そうな表情のどちらかにしかならない時透くんの表情筋があんなにフル活動している……!?
時透くんが笑顔でパンを選んでいるのを引き気味に見つめながら私も大好きなメロンパンを選び、レジへと持っていく。
「お疲れ様です炭治郎先輩」
「ありがとう納豆!それにしても驚いたよ。納豆から時透君の話を聞くことはあったけど放課後に二人一緒に遊ぶくらい仲が良かったなんて知らなかったな〜」
「あれ、言ってませんでしたっけ?」
「特に聞いた覚えは無いが……」
「そうでしたっけ……?まあ、そうですね。私達結構仲良いんです!ね、時透くん?」
レジ待ちで後ろに並ぶ時透くんに同意を求めようと後ろを振り返る。少しずつ演技をすることに慣れてきた。落ち着いている時透くんを見ていると自然に私の心臓も落ち着いた。
私に同意を求められた時透くんは一瞬ん?と首を傾げた後に綺麗な笑顔を浮かべて「僕はそんなつもりないけどね!」と言ったので私はそれに合わせて「えっ!もしかして一方的に私がそう思ってただけなの!?」と慌てながらそう言う。
こうすればいい、こう言えばいいと頭の中に浮かんできたことをやると自然と上手くいった。炭治郎先輩も特に怪しんでいる様子でもないし、むしろ私達を見てとても微笑ましそう。……炭治郎先輩は私が男と二人でいても何とも思わないんだ、とほんの少しだけ悲しくなる。
しかし、そのとき急に私の肩に腕が回されグイッと後ろに引き寄せられた。
「嘘だよ。僕も納豆のことは好きだし」
「え」
「納豆は面白いし、飽きないし、でもうざくはないし」
「あの」
「一緒に居て楽しい人って結構好きなんだよね」
「アッ、ソウナンデスネ!」
「ほらこう言うだけで簡単に照れる。そういうところも見てて飽きないよ」
「ゔぐっ!」
演技とは言えど普段なら絶対に聞くことが無いであろう時透くんの言葉に私は柄にもなく本気で照れてしまった。炭治郎先輩一筋だけどやっぱりこの人も顔が良いんでね!?照れるんですよ普通に!!なんせ炭治郎先輩以外とは付き合ったことも無いものでね!!
熱くなった顔を冷まそうと手を団扇代わりにしてパタパタと扇いでいると、カシャンッと何か金属のようなが落ちた音がお店中に響き渡る。その音に私と時透くんが驚いて肩を揺らす。
「あ、ごめん二人とも!」
声を上げたのは炭治郎先輩。どうやらレジでパンを袋詰めする用のトングを落としてしまったらしい。わたわた、と慌ててトングを拾った炭治郎先輩は「ちょっと交換してくるから」と言って逃げるかのようにお店の奥に戻って行ってしまう。そんな炭治郎先輩の様子に違和感を覚える。いつもの炭治郎先輩ならもっと冷静に動くような気が……。
そう感じた時、もしかして私と時透くんの作戦が上手くいったのか?と思った。時透くんに「炭治郎先輩ちょっと様子可笑しくなかった!?」と興奮気味に詰め寄ると、時透くんは既にいつもの
「僕もう帰るから」
「……は!?」
突然のカミングアウトに私は思わず声を荒らげてしまう。時透くんは自分の持っていたパンの代金をレジに置くと購入したパンだけを持って本当にお店を出ようとした。咄嗟に時透くんの腕を掴み「待って!」と呼び止める。
すると振り返った時透くんは、あんな炭治郎先輩に向けるようなキラキラした笑顔ではないけど、小さく口元が弧を描いており、どこか満足気な表情をしていた。
「結構楽しかったよ。後は二人で楽しんで。あ、ちゃんと後で何があったか報告してよね」
「あとさ、あえてずっと言わなかったけど別に不安になる必要ないんじゃない?」
「
「だって何百年も前から炭治郎は納豆一筋なんだから」
今まで「炭治郎さん」と呼んでいたのに、いきなり「炭治郎」と呼び捨てになったこと。
「何百年も前から」というよく分からない言葉。
理解することは出来なかったけど、時透くんがそう言ってくれるのなら本当に大丈夫な気がした。
時透くんがお店の扉を開けてスタスタと出ていった。残されたのはカランカラン、と鳴る鐘の音だけ。
「二人ともごめんな!今戻っ……た……。って、あれ?時透君は?」
新しいトングを手にした炭治郎先輩が戻ってきた。時透くんが消えて私だけになった状況を見て炭治郎先輩は首を傾げる。私は時透くんは先に帰りましたと炭治郎先輩に告げると炭治郎先輩は「…そうか!」と残念そうに、でも少し嬉しさを滲ませた声でそう言った。
時透くんのお陰で頭が冷えた。
何を不安に思っていたんだろう。炭治郎先輩は確かに「好きだ」とは言葉にしてくれないけど、冷静になってみたら炭治郎先輩の行動一つ一つにちゃんと私のことが好きだという気持ちが現れているではないか。
私と時透くんの距離が近いと慌ててしまうところも、時透くんが帰って私が一人になったことに少し安心してしまうところも。思い返せばそれだけじゃない。炭治郎先輩は凄く
しっかり言葉にしよう。態度に出そう。遠慮ばかりしていては炭治郎先輩と分かり合えない。
「炭治郎先輩、ずっと言いたい事がありました」
「私、不安なんです。炭治郎先輩は私に『好きだ』って言葉にしてくれません。それが凄く不安なんです。炭治郎先輩が本当に私のことを好きなのかなって」
「私は炭治郎先輩のことが大好きです!これから先も一緒に居たいって思っています!炭治郎先輩はどう思っているんですか?」
「私のこと、ちゃんと好きですか」
言いたかった事がようやく言えたことが嬉しく、感極まってしまったことでポロリと涙がこぼれる。滲む視界に映る炭治郎先輩はとても驚いた表情をしていた。こぼれる涙を拭おうと服の袖で目を覆ったとき、体が大きな何かに優しく包み込まれた。とても温かい。すぐにその何かは炭治郎先輩だと気がついた。
「ごめんな納豆、不安にさせてしまって。俺は納豆が好きだ。いや…この気持ちは好きでは収まらないな。だってずっと好きだったんだ。ずーっと前から追って追って追い続けたのに納豆は鬼舞辻に殺されてしまって、ようやくまた会えたんだ。ここで。この世界で」
「俺も納豆と出会ったばかりの時は覚えていなかった。でも納豆と付き合ってからようやく思い出した。いっそ忘れたままの方が納豆にとっては良かったかもしれないな。納豆には今世で自由に暮らして欲しかったけど……こんな風に言われてしまったらもう離してやれない」
「好きだ、大好きだ。愛してる、凄く。俺も納豆とずっと一緒に過ごしていきたい」
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炭治郎先輩は私と付き合い始めてからずっとその気持ちを抑えてきた。炭治郎先輩は嘘は苦手で、嘘をつこうとすると変顔をしてしまうのに。先輩曰く、「それは嘘じゃなくて秘密だから大丈夫だったのかな」らしい。私はずっと欺かれていた。私が殺されてとかこの世界でまた会えたとか、まるで時透くんのようなことを言い出す炭治郎先輩に何となく私は彼らが『前世の話』をしているんだろうなと察した。私は全く覚えていはいないけれど。でも時透くんや炭治郎先輩が言うくらいだから本当に前世はあったんだろうな。前世でも今世でも炭治郎先輩に愛されている私は幸せ者だ。
ちなみに炭治郎先輩に時透くんとのは演技ですと言ったら「違和感の匂いはしていたけど演技だとは思わなかった!」と言われ、ガッツポーズをしてしまった。
炭治郎先輩の鼻を欺く私と時透くんの演技力は神すぎる。だけど炭治郎先輩も炭治郎先輩の鼻をこの長い間欺き続けてきた。お互いに「凄いね」なんて褒め合った。炭治郎先輩の温かい手で頭を撫でられるのがとても心地よかった。
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(解説)
書くのに力尽きたのでここで解説します。
納豆ちゃん
前世の記憶無し。炭治郎を好きになる。炭治郎の一個下で時透と同い年。
炭治郎
前世の記憶あり(納豆と付き合った時期に記憶を思い出す)。前世で納豆に気持ちを告げようとしていた時に納豆が鬼舞辻に殺されてしまい気持ちを告げられなかった。今世では納豆が好きすぎて手を出せない&出来るだけ今世では納豆に自由に暮らして欲しいという願いがあったから自分の気持ちを殺していた。まあ優しいというわけです。
ヤンデレにはなりません。でもかなり嫉妬深くなります。でも人前では普通です。家に帰るともう大変なことになりますよ←
時透くん
生まれた時から前世の記憶あり。納豆と同い年。前世でも納豆と結構関わりあった。前世から納豆のことをかなり気に入っていたので、納豆が鬼舞辻に殺された時は炭治郎と同じくらい怒り狂った人。炭治郎×納豆を全力で応援してる良い人。
力尽きて最後雑になりました。ごめんなさい。
いつかリベンジします(:D)| ̄|_