あなたに届ける春
「ほぁ〜」駅までの道すがら、つい、ため息が漏れた。
北風に衣を剥がされ、つい先日までただの棒っきれのように道端で佇んでいた木々。いつの間にか、この日を待ってましたとばかりに色を付けていたのだ。
平たく言うと、桜が満開だった。
「……全然気が付かなかった」
殺風景だった冬とは雲泥の差。地元ではちょっとした名物になっているらしく、花見をしに来た人で賑わっていた。
黒髪にひらり舞い落ちた、淡い恋のようなピンクのそれに、ピンと来てスマートフォンを取り出す。
「よいしょ……」
覚えている限りでは、ヤツがここに来たのはまだ寒空の頃だったはず。
何枚か角度を変えて、カメラに収めた。一番写りの良さそうなものをひとつ選んで、メッセージアプリを起動する。
写真だけを送ろうとして、それだけでは味気ないだろうかと思案する。自分からこういうことをするのは得意ではない。どちらかというとヤツから届いた数の方が多いぐらいだ。
「うーん」
たまたま通りがかったら咲いてたから。綺麗ですよ、花見とかやりました?僕はまだなんですけど。無駄に言葉を並べては消し、並べては消し……。
しばらく見ていない顔を思い浮かべて、思うことはひとつなのに。
「ああもう!」
ついにヤケになってキーボードをタップする。そろそろ顔が見たいです。送信。もう知らん。
ポケットに突っ込んだスマートフォンがすぐに何度も震える。手のひらでそれを握りしめて、賑わう人の中、僕はちょっとだけ唇を緩めた。