手料理

パチン。パチン。
ぎゅうぎゅうに詰まったタッパの中身は、肉じゃがに煮付けに卯の花。
高校生が作るメニューには到底思えないそれは、どれもガクくんの好きな物ばかりだ。
明日出かける直前に持って出たらいい。
「刀也、明日何時に出るの」
冷蔵庫の扉に手をかけた時、風呂から上がった母親がキッチンに現れた。
「あ〜昼過ぎ?」
約束は明確ではなかった。
「じゃあ、お昼は用意した方がいい?」
一瞬考えそうになって、手の中の存在を思い出す。
「これあっちで食べるからいい」
僕が手に持ったタッパを見て、母はそう、とだけ呟いた。
ガクくんがけっこう和食とか煮物とかが好きって知ったのはいつのことだったか。手の込んだものばっか、好きになりやがって。気持ちとは反比例して、僕の料理の腕は上がった。
「これ、余ったって。こんなのでよかったら、昼ごはんに食べません?」
「お、マジか!剣持家の味、美味いんだよなぁ〜。助かるぜ」
一人暮らしを始めたガクくんは、自炊を始めた。毎日するのは大変らしく、時々おかずを持っていくとよく喜んだ。
「お母さんにもよろしく言ってくれ」
最初に嘘をついてからずっと、ガクくんはタッパの中身が誰作かは知らない。
「はいはい」
冷凍されていたご飯を電子レンジにかける。一人暮らしの家に大皿なんてないから、温めたあともタッパのまま雑に並べる。
それでも、ガクくんと囲う食卓は特別だ。
「いただきます」
「いただきます」
ガクくんの箸の動きを追ってしまう。その肉じゃが、ちゃんと一度冷まして味付けしてあるんですよ、知らないだろうけど。
大きく開いた口の中へ、ほろりと崩れたじゃがいもが消えていく。
「ン〜!美味い!」
途端上がる歓声に、僕の心も綻んだ。
「ちゃんと噛んでる?」
「……っ、噛んでる噛んでる」
ほんとかなあ、今飲み込みそうになったじゃん。水を手渡しながら、ブレーキをかける。
「そんなにガツガツしなくても無くならないって」
「だって、美味しいからさあ……」
でしょ?
零れそうになった言葉を飲み込む代わりに、僕も一口じゃがいもを放り込んだ。
「いや、ちょっと味が濃い……?」
料理とは実に天井がない。次はもう少し醤油を減らして……思案する僕をよそ目にガクくんはご満悦で茶碗を空っぽにした。
「おかわり取ってくるぜ」
「もう?」
キッチンに立つガクくんを見送る。並んだタッパを前に、よし、と人知れず再び気合が入る。
いつか自信を持って僕の手料理だと言える日まで。まだもうちょっと騙されていてくださいね。