まいご

「……迷った」
会話の合間にぽつり漏らされた言葉。流石に聞き逃す訳にもいかず、すぐさまつっこんだ。
「はあ!? 任せろって言ったの刀也さんだろお!?」
「しょうがないじゃないですか、こんな入り組んだ道だなんて思わなかったんですよ!」
リスナーに教えてもらった店に行こうという話になったのが数日前。僕行き方調べますよ、と得意気な声で言った刀也さんに、全信頼を寄せた自分が馬鹿だった。
「うーん、さっき曲がりましたよね……」
スマートフォンの小さな画面で、地図アプリとにらめっこしている刀也さん。察するに、おそらく方向音痴と見た。スマートフォンを回し地図の方向を変える姿に、思わず笑ってしまう。頼むからせめてGPS機能使って?
「見せてみ?」
少し屈んで一緒に手元を覗き込む。陽射しが強く、よく画面が見えない。
「んーっと、どれどれ〜て、いってえ!蹴んな!」
がしかし、ちゃんと現在地を確認できる前に、突然げしげしと蹴られ、危うくバランスを崩す。
「ちょ、いきなり何すんだよ!?」
「クッソ、屈むな! 5cmぐらいしか変わんねーだろ! 縮め!」
「オレの身長が高いのはオレのせいじゃねえ!」
「ムカつくなあ、ちょっとは僕に配慮しようとか思わないんですか! だから鈍いって言われるんだろ!」
「鈍くねえー!」
お互いを蹴ったり叩いたり、どれだけそうしていただろうか。くすくす、通りすがりに笑い声が聞こえてきて、ハッと我に返る。制服を着た女の子たちが、こちらを見て何か囁いていた。
こんな往来のど真ん中で、オレらふたりして大真面目に何やってんだか。思い至ったのはオレだけでなかったらしい。ふと冷静になった刀也さんと、視線が絡む。そしたら一気におかしくなってきて。
「ヒッ、イッヒッヒッヒッ」
「あははははっ」
何事かと周りのひとが振り返るのも構わずに、腹を抱えて笑う。特徴的な笑い声があたりに響いて、余計笑いを誘った。
「あ〜笑ったわらった、そろそろ真面目に店探そうぜ」
「んんっ…そうですね」
もう一度、刀也さんの手元を覗き込む。今度こそ蹴られはしなかったが、少し不服そうな横顔にむずむずと口が緩む。いかんいかん、ちゃんと探さないと。
意識を地図の中に集中させた結果。背後にそびえ立つビルの中に、目的の店の看板があることに気付き、再び笑いが止まらなくなるまで、そう時間はかからなかった。