誘惑大作戦!

ちら、ちらと刺さる視線にひとりほくそ笑む。これだけ見るとめちゃくちゃ不審者みたいだけど、勘違いしないでほしい。ここは健全なカフェの一角だし、大好物のロリやショタを目の前にしているわけでもない。
ただこんなに上手くいくもんかと、カウンター席の隣でフラペチーノを啜りながら、僕の開いた胸元に視線をやる伏見ガクに内心笑いが止まらないのだ。
ねえガクくん。次の打ち合わせするって言って誘ったのそっちのくせに、口にストローすら上手くさせてないですよ。
「そろそろ配信もいいですけど、動画とかも出したいですよね」
メモを取るために出した手帳を覗きながら、すっと寄れば、腕と腕が触れる前に避けられる。
「っあ〜、そ、そうだな」
茶髪の隙間から見える耳が真っ赤で、可笑しくて仕方ない。
わざと動揺を誘うような恰好をしてきた自覚はあった。いつもより胸元が大胆に開いているシフォン生地の白ブラウスに、デニムのショートパンツ。足元はトップスに合わせて白のサンダル。夏の日差しに負けない、現役女子高生の最強デートコーデ。
言っておきますけど、別に普段からこんな格好してるわけじゃない。まあせっかく会うんだし、たまにはおしゃれしてもいいじゃないですか。そうですよ、友人と会うのにおしゃれしただけです、別にガクくんのことなんか意識してるわけじゃないですから。って僕、誰に言い訳してるんだ?
そうして何度か押して引いての繰り返しを楽しんでるうちに、ついにガクくんが何か言いたげな雰囲気を醸しだしてきた。
「あのー、刀子さん、その……」
きた!
ガクくんの言いかけた口が、開いては閉じる。視線がうろうろと所在なさげに揺れて、だけど絶対に目は合わなくて。可愛いなあ、なんて思ってしまう自分を黙らせて、なんですかって小首を傾げた。さらさらと入念に手入れしている髪が、肩に触れてくすぐったい。
「いや、」
「言いかけてやめるなよ、気になるじゃないですか」
観念した、という風に息を詰めるガクくん。期待に胸を高鳴らせる僕。さあ言え、言うんだ伏見ガク! 僕の谷間が気になりますって!
「……今日、足出しすぎ。目のやり場に困る、ん、すけど」
って、そっちかーーーい!
脳内刀子が一斉につっこむ。待って、普通男の人ってでっかいおっぱい好きなんじゃないの。今までの常識という名の偏見が崩れ去る音、音、音。
確かによくよく思い返せば、ガクくんの視線がなんとなく下方に向かっていた気がする。僕けっこう自信あったのに。同級生の中でも無駄に育った胸が恨めしい。これ剣道する時本当に邪魔なんですよ。と、誰に言うわけでもなくひとりごちる。
「もしかしてガクくんって、女性の足とかお尻に興奮するタイプですか?」
ほとんどやけくそで剛速球をぶちこんだ。案の定慌てているガクくんに、ぐっと詰め寄って言う。ここまで来て、逃がしはしない。
「僕は、真剣に、聞いてるんです」
「あー……、まあ否定はしない」
「変態」
「なんでだよッ! 聞いてきたのそっちだろッ!?」
ああもう認めたくないけど、僕の完全敗北です。プライドずたずたですよ。まさかこんな結果に終わるなんて思いもしなかった。みなさんこれがおはガクの正体ですよ。わあわあ弁解をしようとするガクくんを無視して、飲みかけのフラペチーノに口を付ける。
「悪かったって、じろじろ見たりしてさあ」
機嫌を損ねたことを察したのか、ガクくんが必死で謝ってくるけど、残念ながら的外れです。ほんと、そういうとこだぞ伏見ガク。鈍いにもほどがある。まあ僕の武器が意識されてないなら、意識させるまですよ。頑張れ僕、頑張れ剣持刀子。
次会う時は足を出すのはやめて、必然的に胸元に目線が行く服にしたらどうだろう。もう少し接触を図ってみるのもありだな。この前見たワンピース、あれも良かったし今度買いに行くか。いくつもの考えが頭を過ぎって消えていく。
だけど作戦をあれこれ考えていた僕は、全く気が付いてなかった。
おそらく、たぶん、その努力の方向が、思いっきり斜め上なことに。そして、僕だって無意識に、ガクくんのゆるいTシャツから覗く鎖骨や、節くれだった大きな手をまともに見れていなかったことに。