at Cafe
「……知ってたよ」利きの悪い冷房がわざとらしく肌を撫でる。氷の溶けたアイスレモンティーに、もう口をつける気は起きない。
「あのこでしょ」
「ほんっとに、……ごめん」
いつだって我儘を言って、文句ひとつ言わない優しい笑みで叶えてもらうのは私だった。彼が私に何かを強請ったことなんて一度もなくて。なんて出来たひとなのだと、友達に自慢したのが懐かしい。
でも、違った。
回るシーリングファンの下、固い顔をした生真面目な彼を思う。
きっとあのこには言うんでしょ。私には優しさしか吐かない口で、あのこを困らせる我儘を言うんでしょ。
一度だけ見かけた、あの艶やかな黒髪を思い出す。
誰にも懐かないような澄ました顔をして、時折花が綻ぶように甘えて見せるあのこ。
「いいよ、別れてあげる」
口に出した途端、すっと肩から力が抜けた。
私が好きになったのは、あのこを好きになった彼だったんだ。今更気付いたってもう遅い。最初から勝ち目などなかったのだから。
認めてしまえば、木製テーブルひとつ挟んだこの距離すら妥当だと思えた。
さようなら好きなひと。ううん、好きだったひと。どうか手折った蕾の事など、振り返らず捨て置いていって。