at Hair salon
「本当にいいんですか?」「はい、お願いします」
鏡の中の私が硬い表情で頷く。
美容師さんも思わず躊躇うほどの長さになった、私の長くてまっすぐな黒い髪。本当はくせっ毛だけど、頑張って毎日ストレートアイロンで伸ばして、綺麗に保ってた。
だけどそんな自慢の髪の毛とも、今日でおさらば。
準備をし始めた美容師さんを背後に、私は鏡から目が離せなかった。いよいよ持ち上げられたひと房に、すっとハサミが通る。
じゃきん。オレさ、黒髪ロングが好きなんだねえ。
じゃきん。ちょ*綺麗、手入れとか大変じゃないのかい?
じゃきん。それ編み込みって言うんだっけか? すっげえ可愛い。
バラバラ落ちてく髪の毛と一緒に、彼の言葉を思い出してはひとつずつ別れを告げていく。
久しぶりに会えるからって頑張って慣れないヘアアレンジをした朝も、早く寝たいと文句を言いながらドライヤーをかけた夜も、全部全部彼の隣に並びたい一心だった。
でもそんな昨日までの、伏見ガクを好きな私はもういない。
『ごめんな。お前のこと、そういう風に考えられない。』
私よりも苦しそうに笑った彼に、優しさの塊のような彼に、また笑顔で会うために、ここに捨てていく。
背中の中頃まであった長さも、気付けばもう肩に付くかつかないかまで短くなっていた。さらにハサミが入って短くなっていくすっきりとした頭を見つめて思う。
なんだ、無理して伸ばした黒髪ロングより、よっぽど似合うじゃん。
「カットはこんな感じで大丈夫ですか?」
「はい、ありがとうございます」
「それじゃあ、カラー剤作ってきますね」
手持ちの服はみんなロングに合わせたものばかりだった。もしかしたら、ショートには似合わないかも。今月金欠なのに、出費が増えるのは勘弁だなあ。ふうっとため息を付いて、鏡の中のわたしを見る。
短くて明るくてふわふわパーマ(予定)の、今までとは真逆のわたし。彼の好みとは真逆のわたし。それでも。彼に縋っていた昨日の私よりも、自分のことが好きになれそうだった。