にたものどうし

太陽もちょうど真上を向く、休日のお昼時。しがないサラリーマンの俺は、付き合って数年経つ彼女と美味しいと評判のひつまぶしのお店に来ていた。流石老舗と言ったところか、外には長蛇の列が出来ていて、特にひつまぶしにも思い入れのない俺は、待ち時間を持て余していた。
もちろん彼女とのデートは楽しいが、付き合って数年経つと互いの感覚なんかもわかってきて、こういう長時間待つ場合の会話数は減るばかりだ。隣で熱心にスマートフォンを見つめている彼女をちらりと見て思う。
こう、なんだかなぁ。
やるせない気持ちで項垂れて下を向いた時、ふと前に並んでいる人の会話が耳に入った。
「シャキッとしろよ、大和さん!」
「お兄さんもう限界、座らせて」
ふたり連れの男性で、ひとりは眼鏡にマスク、もうひとりは深く被った帽子から特徴的なオレンジ色の髪が覗いていた。しかしその話し声は、何故か周囲を気にしているように小声であった。
「まだ始まったばかりなんだから、ここでへばってたら負けちまうぞ」
「いやミツ何と闘ってんのよ」
飽きれたように返す眼鏡に同情する。お前もとりあえず連れて来られたパターンか。ミツ、そう呼ばれた帽子の方が、どこかで聞いたことのある声で楽しそうに続ける。
「まずはひつまぶしだろ?次は小倉トーストで、その後は味噌カツ食べて、」
「ちょ、ちょっとミツ多くない?」
「昨日麻雀で負けて、何でもするって言ったの誰だっけ?」
「…こんなハードだとは聞いてません」
あはは、と明るく笑って帽子が眼鏡の胸元を小突く。
「いーじゃん!久しぶりにロケで観光出来るんだからさ。楽しまないと損だろ!」
「はいはい」
さも面倒くさそうに受け答えをする眼鏡に、心の中で声援を送ったところでふと気が付いた。帽子の右手が眼鏡の左手と共に、大きなコートのポケットに突っ込まれているのだ。偏見とかそういうものの前に、純粋にいいなぁと羨ましく思った。
ガイドブックを広げてあれこれ説明する帽子はきっと気が付いていないだろう。あんたを見つめる眼鏡の優しい眼差しに。もしかしたら本人も気付いてなかったりして。
口ではなんだかんだ文句を言っていても、実は楽しんでるのも一緒か。なんだか急に自分が寂しくなって、今だに画面を見つめている彼女に話しかけた。
「なぁ、手…冷たくない?」