思いがけない珍客
山積みの本、散らばった書類に囲まれて、カタカタとパソコンを打ち続ける。持ち帰った仕事が終わらずに、夕食のあと作業を始めてもう数時間経っていた。「ん〜!」
凝り固まった肩を解すように、伸びをする。
しんと静まったリビングは、賑やかな普段を知ってる分、なんだか物寂しい。がやがやと騒がしい様子を思い起こして、いやいやこんな風に思うなんてやっぱり疲れていると首を振る。ひと息つこうかと手を止めた時、不意にリビングの扉が開いた。
現れたのは、いつもより数倍不機嫌な顔をしたタイガだ。
「あれぇ?こんな時間にどうしたにょ*?怖い夢でも見た?」
揶揄う言葉に目もくれず、ずかずか歩みを進めたタイガは、向かいの席に派手な音を立てて座った。
どさり。これまた派手な音を立てて机に置かれたのは、数学の教科書。それとノート。
「え?」
状況が飲み込めない自分を置き去りにして、それらを広げたタイガが、無言で数式と格闘を始める。意図がわからず、しばらくぼーっとシャープペンの流れる先を眺めた。視線に気がついたタイガが、まるでお前もやれと言わんばかりの目で睨む。
「タイガきゅん、付き合ってくれるの?」
全部言い終える前に、脛を蹴られた。
「暴力反対っ!」
また飛んできた爪先を今度は華麗に避けようとして、テーブルの天井に膝をぶつけて呻く。耐え切れなくなったくぐもった笑い声に、一気に脱力した。
さて、もうひと頑張りしますか。
静まったリビングに響くタイピング音と、シャープペンの芯が削れる音。思いがけない珍客との、見えないバトルはもう少し続きそうだ。