適当に



「やっとこの忍務も終盤よ。明後日、尻尾を捕まえられればだけどね」
「危ないんじゃないの」
「…カカシ、それ本気で言ってる?」

##NAME1##が吹き出すようにそう言うが、反してカカシは険しい顔つきを崩さない。

「私を舐め過ぎじゃない?実力はカカシが一番良く知ってるでしょ。だいたい、相手はただの一般人。忍びじゃないんだから何をそんなに心配する必要があるっていうの?」
「…お前こそ、そのお気楽な性格をどうにかしたほうがいいんじゃないの」
「なに不機嫌になってるの。え、なに、喧嘩売ってる?」
「なんでそうなるのよ」
「だってたかがこんな、一商売人を現行犯で取り押さえるくらいどうってことないでしょ?私さ、上忍だよ?下忍ならカカシの言い分もわかるけど」
「だから、お前のその考え方、いつか痛い目みるよって言ってるの」
「だから!…っ」

カカシのいつになく不快そうな言い方に思わず##NAME1##も声を荒げかける。しかしすぐにここが常連の団子屋なことを思い出し、一呼吸おいた。

「だから、言いたいことがあるならもっとちゃんと言って。今日はどうしたの?なんかおかしいよ」
「…」
「少し前から、だけど。カカシ、そんな人だった?」

カカシは内心、何度目かわからないため息をついた。
この女は自分の魅力に気が付いていないのだろうか。冗談っぽくゲンマが腰へ腕を回したときも笑うだけで簡単に受け入れて。仲間だから、それ以上にはいかないだけで、全くの赤の他人ならそうはいかないだろう。それを##NAME1##はわかっているのだろうか。
より深く刻まれたカカシの眉間の皺に、##NAME1##の指先が触れた。

「っ」
「自分の世界に入りすぎ。こんなんで驚くなんて。大丈夫?」

様子を伺うように見上げる##NAME1##の視線が艶かしく映り、カカシは瞳の奥を僅かにギラリと光らせた。

「それ、わざと?」
「は?」
「…なわけないよねー」
「え、なにが?」

頭にクエスチョンマークを浮かべる##NAME1##とは反対に、カカシは呆れを通り越して笑った。

「…え、ほんとなに、気持ち悪い」
「お前、酷いね」
「いや、今日のカカシよりマシ」
「…##NAME1##」

突然ワントーン落とされた声に、##NAME1##の目付きも鋭くなる。

「相手は裏の商売人だろ。昼間は表で健全な物を売ってるだけで、夜は危険な物を取り扱ってる。一般人と言えど、後ろ楯に忍びが必ずいる」
「だから私は近付いてる。昼間にそこそこ仲良くなって警戒心を解いた。あとは他里でも自里でも、ヤバイモノを扱ってる瞬間に捕らえるだけ」
「そんな簡単にいくと思うのか?」
「時間はかけてる」
「そういう問題じゃない」
「相手は一般人だ。忍術を使用するためのチャクラはない。それは確実。多少暗具を扱えたとしても、それも私の方が数段上手い」




「ヤバイモノを扱ってるんだぞ。相手だって##NAME1##、お前を少なからず警戒はしてるはずだ。何をされるか」
「される前に討つ」
「…相手は、男だよ」
「何が言いたいの?私がそこら辺の男に負けるって?冗談もいい加減にしてよ!カカシにだって退けをとらない力が私にはあるわ」
「確かに、忍者の勝負、ならね」
「…?」
「…」
「なに?」

カカシは冷めきったお茶を一口、含んだ。

「##NAME1##はつまり、忍術を使わないただの一般男性になら誰にだって勝てる、そう言いたいんだよね?」
「…なんか引っ掛かる言い方だけど、まぁそりゃ、こっちには分身も変わり身も瞬身も、相手を傷つけることなく交わして後ろをとる術があるんだから当然」
「ふーん」
「だから、「あ、家に大事な書類忘れたた」

##NAME1##の言葉を遮り、突如カカシはなんの脈絡もない意味不明なことを呟いた。

「…カカシ?」
「いやーごめん。それ##NAME1##に渡さなきゃいけない重要な物でさ、今から取りに行かなきゃいけないね」
「私に?誰から?」
「火影から」
「ちょっと!なに忘れてくれてんの!早く取りに行って!」
「もう食べ終わっちゃったし、ここで待ってるのもおかしな話でしょーよ」
「まぁ、そうだけど」
「今日はもう忍務も終わってることだし、一緒に行った方が効率いーんじゃない」
「私は足を動かさなきゃいけないからカカシの効率が良いだけでしょー」
「そうとも言うね」
「そうしか言いません」

ま、いっか。そう言って会計を済ませ二人は夕焼けに照らされた道をゆっくりと歩き出した。

「ってか、さっき話の途中だったよね?」
「そうだっけ?忘れちゃったな」
「うっそ。あんなに真剣に言い合ってたのに」
「まーいいじゃないの」
「なんかモヤモヤするけど…」

ぶつぶつと続ける##NAME1##を横目にカカシは再び獲物を狙うかの如くギラギラとした瞳をした。

「書類、机のどこかにあるはずだから探し出すまで適当に座って待ってて」
「わかったーお邪魔しまーす」
「…ふーん、あがるのね」
「え?」
「なんでもなーいよ」

ものが少なく整理された部屋に乱雑に置かれた紙の束が嫌でも目に入る。
重要書類をこんな風に扱っていていいのだろうか、##NAME1##はお節介にも少しだけ心配した。
しばらくして、まだがさごそと探しているカカシに流石に違和感を覚え、##NAME1##は首をかしげた。

「ねぇ、まだ見付からないの?もしかしてなくした?」
「…」
「え、まさか、本当になくした…なんてこと」
「無いよ」
「は!?」
「無いよ」
「カカシ、あんた、なくしたなんて…」
「元々、そんなもの無いよ」

そう言うや否や、カカシは一瞬にして##NAME1##との距離を詰めた。僅かコンマ数秒のことだったが、さすがは上忍と言ったとこだろうか、##NAME1##もそれとほぼ同時に椅子から立ち上がり後退した。

「っ、なに?びっくりさせないで。それに、元々ないって、どういうこと?」
「書類なんて、嘘ってことだよ」
「はぁ?なんでそんな嘘を」
「##NAME1##は簡単に着いてきて、簡単に俺んちにあがったね」
「だから…さっきから何が言いたいのかさっぱり…」
「それは俺が身内のような仲間だから、だよね?流石に知り合ったばかりの男の家にあがるようなバカじゃないとは思ってるけどさ」

一歩、カカシが歩を進める。ピリッとした空気に自然と##NAME1##の足が後ろへ行く。

「カカシ、それ以上その態度でこちらにくるなら、私も迎え撃つわよ」
「…上等だよ」
「…カカシ、私は本気よ」

殺気を隠さないカカシに##NAME1##もいよいよこれが冗談ではないことを感じ取った。しかし意味がわからないといった、思いが迷いを生む。

「そう、##NAME1##なら殺気を感じさせない相手からいきなり襲い掛かられても同時にそれを避けるくらいできると思ったよ」
「それはどーも」
「でも##NAME1##、ここはそんなに広くないんだよ」

言い終わると同時に再びカカシは瞬で近付いた。##NAME1##も再度下がろうとはしたものの、壁に阻まれて至近距離を許してしまった。

「っ」
「屋内と屋外を瞬時に判断できないなんて、まだまだじゃないの、##NAME1##」

壁につかれた手によって##NAME1##は逃げる道を失ってしまった。

「確かに、迂闊だった。けど至近距離ってのは何もそっちにだけ有利に働くものじゃない!」

目にも止まらぬ早さでクナイを手に取りそれを目の前の首へと向けようとしたその時、

「な」

意図も簡単にその手を掴まれ、壁に叩き付けられた。その衝撃でクナイを床へ落としてしまった。

「あれ、##NAME1##ってそんなに弱かった?」
「っ、喧嘩売ってる?」
「売ってるかもね。やり返せるの?」

余裕を崩さないカカシ苛立ちを覚え、##NAME1##は空いてる手で秒で印を結び風遁で吹き飛ばそうとした。しかし、

「そんな時間、あげると思う?」

カカシは自分の口に何か含むとそのまま##NAME1##の後頭部を掴み寄せ唇を重ねた。

「っ!?」

思いもしなかった行動に術を放つのが止まってしまった。

「…っ」

無理矢理開かされた口に押し込まれた何かが流れ込むように喉を通り体内へと消えていった。それを終えるとカカシは顔を離し、ペロリと唇を舐めた。

「あんた、な、なに考えて…」
「言っておくけど、俺は今もこの後も、忍術は使わないよ」
「は?」
「それはただの薬」
「…何を飲ませたの」
「なんだと思う?」
「…毒」
「ハハ、これが毒だったら、お前死んじゃうね」

笑い事ではない。##NAME1##は怒りを露にした。

「何で怒ってるの?」
「はぁ!?カカシが!」
「だって##NAME1##言ったじゃない。忍者でもない一般男性に負けるわけないって」
「…!?」
「距離を詰めたのだって、別に瞬身でもない。運動神経の良いやつならあの距離くらい詰めるのはできる。クナイだって、飛んできてるんじゃなければなんてことない」
「…」
「ね、##NAME1##。今お前に何ができた?」

見下ろすカカシの目の冷たさに、##NAME1##は不覚にもピクリと身体を震わせた。

「っ、カ、カカシだから、油断しただけ。これがよく知らない男相手なら、ここまで下手はうたないわ!」
「へぇ。まだ言うんだ」
「…っ」
「じゃあ俺も、手加減しないよ」

カカシは##NAME1##の掴んでいた腕を力強く引っ張りそのままベッドへと投げ飛ばした。受け身はしっかりと取ったものの、いきなりのことに抵抗することは叶わなかった。そして間髪入れずにカカシが上へ覆い被さってきた。

「っ」
「いー眺め」

カカシはニヤリと口元を歪ませる。ぞくりと背中に嫌な感じを覚えたが、##NAME1##は冷静に、自由な両手で俊敏に印を結んだ。
風遁…

「突破!」

カカシが吹き飛ばされ、##NAME1##は見下すように目線を向ける、はずだった。しかし、どうしてか、術が放たれなかった。

「…ぇ」
「どうしたの」
「…なん、で」

印を間違えた?チャクラが不足してる?
どちらもすぐに否定できた。印なんて息をするように、もはやあってないような当たり前で、チャクラも体内に感じとることができている。
では、なぜ。##NAME1##は初めてのことに困惑を隠せないでいた。

「ま、何もしないならそれでも俺は良いけどね」

ニコリ、優しそうな、純粋そうな笑顔だったが、それにより##NAME1##には一連のことがカカシのせいなことを理解した。

「何をしたの!?幻術!?」
「俺は術を使わないって言ったでしょーよ」
「じゃあなに…っ」

痺れを切らしたかのようにカカシが突然##NAME1##の首筋に顔を埋めた。

「っ」

触れる唇のくすぐったさに思わず身体を動かす。首筋を上がった唇が耳たぶを優しく噛んだ。

「んっ」





「もう一度だけ聞くよ、##NAME1##。今、お前に、何ができた?」

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