恋というやつは非常に厄介なものである。
だがそれ以上に

「ディオ、一緒に遊びましょう!」

静寂を割って聞こえてくる明るい声、最初は耳障りで仕方がなかったそれは今では心地よくスッと耳元に届いた。
ディオと呼ばれた少年は読んでいた文章の一文を一瞥すると栞を挟み、本を閉じた。

「遊ぶと言ってもまたいつものアレをするんだろう?」

木陰から立ち上がり、溜め息混じりに答えつつも表情は穏やかで。
いつものアレとはLilyのお気に入りの花畑で花冠を作ったり、彼女が作ってきたお菓子を食べながら寛いで過ごすというものである。
ほとんどLilyにされるがままだが、不思議と嫌ではなかった。ジョナサンへの嫌がらせを考えることよりも、常に一番であり続けるための努力をすることよりも心が満たされるのだ。

「今日はクッキーか」

彼女がバスケットから取り出そうとしている先には
布越しにクッキーが顔を覗かせていた。

「ええ、このクッキー少し工夫したの。食べてみて」

早く味の感想が欲しいのか、#First name#は大きな瞳を輝かせながら食べるのを催促していた。
言わなくてもいつも食べているだろ、と内心悪態をつきながらもクッキーを口の中へと放り込ませる。
口に含んだ瞬間、爽やかな香りが広がった。オレンジのフレーバー、この香りを持つ茶葉を特定するのに時間は掛からなかった。さくさくと小気味のいい音を立てて咀嚼し飲み込めば口角を上げて

「紅茶…これはダージリンか、悪くないな」
「そう、紅茶の茶葉を生地に混ぜて焼いてみたの」
「うまいぜ、きみも食べてみなよ」
「んー…でも、ディオの為に作ってきたから一つでも多く食べてもらいたくて…」
「〜っ…!?きみって…無自覚で言っているのかい?」
悪い虫が寄り付かないようにしておかないと、