目覚ましも特に掛ける事なく朝の6時頃に目が覚めてから真っ先にする事、それは寝癖を直す事である。洗面台までの距離は決して遠いわけではないが寝起きの気怠さも相まってのっそりとした足取りで向かう、しかし着くと同時に真剣な面持ちで寝癖直しに取り掛かるのである。まずは霧吹きで寝癖の部分に水を掛ける、ドライヤーの電源を入れて温風で乾かしつつもう片方の手を猫手にしては元のボブヘアーらしく内側にカールする様に直していく。淡々とこなしていくが地味に時間が掛かる事が多い、10分経過なんてザラにあるが休日であるという事実を思い出せば些細な事なのだ。寝癖を直して満足のいったところで次は朝食の準備に取り掛かる為にキッチンへと移動する。低血圧であり、また朝はあまり飲食物は腹に入らない為量は少ない。以前はロールパンひとつでも満腹になる程であった。彼女は未だ寝ぼけ眼の双眸を擦りながらまずはコーヒーを淹れ始める、インスタントではなくドリップのものだ。電気ケトルに水を入れてスイッチを入れれば忽ち湯が沸く。便利だなぁと思いながらお気に入りのひとつのコップへ設置したドリップの中へ湯を注いでいく、毎朝淹れている為か多少寝ぼけていても感覚は覚えており、最初は10数秒程蒸らしてその後規定の量まで注いでいくのである。淹れたコーヒーの香ばしい香りが鼻を掠め僅かにではあるが自然と口端が吊り上がる、冷蔵庫の戸を開けて目当ての物を取り出す。卵1個、スライスベーコン2枚、スライスチーズ1枚。棚に置いてある袋詰めされた食パンを1枚取り出して調理にかかる。フライパンに大さじ1ほどのマヨネーズを入れて温めていき、その間に食パンの内側を包丁を使ってくり抜いていく。ほぼ耳だけの食パンをフライパンで焼き、カリカリになった頃合いにその中に卵を割り入れる。しかしこれがなかなかの癖もので蓋で蒸しても時間がかかる、食べる時に切り分けようとすると半熟でトロリと黄身が流れ出してくる、これはこれで悪くはないのだがかぶりつく時は厄介な事になる。こうならない為に黄身にしっかりと火が通るまで焼かなければならないのだ、黄身と格闘しつつこの上にスライスベーコンを2枚乗せてその上にチーズを、最後にくり抜いた食パンの内側部分で蓋をして

何かがおかしい、些細な事には気にも留めないが今回はそうはいかない。何せ自分はこの図体のでかい男を知らない、仲の良い男友達は居ないどころか面識さえ全く無い。恋愛においては奥手で
自身のベッドを占領するかのように少し癪に障ったのか何処かムッとした表情に変化しては熟睡している男の元へとゆっくり歩み寄っては様子を伺うように声を掛け始めた。
「あの〜…お休みの所申し訳ないんですが、起きてもらえませんか…?」
男の顔を覗き込みながらの尋問、視界に映るのは眉目秀麗と言う言葉がぴったりと当てはまる程の容姿に驚きと同時に思わず息を呑む。だが、美男であろうと人様の部屋でましてや女性のベッドで眠るなんて事は美しさに圧倒されたからか彼を揺する手は僅かに震えており。
「あ、あの…!起きてくださいっ」
先程よりも大きな声を耳元で言い放つも
流石にもぞりと体を捩らせては仰向けに寝返りをうち、薄らと瞼が開かれた。
「む……喧しいぞ、まだ日が降りていないではないか」
第一声に苦言を呈され、