第一夜

雨が降り続いている。窓辺から空を見上げる女性はどこか物憂げな表情を浮かべているように見えた。
真新しい金貨のように美しい髪は無造作に下ろされ、すっきりとした女の輪郭を縁取る。

「ラウラ」

男が名前を呼ぶ。彼女が長年行動を共にする元帥、クロス・マリアンである。

「どうしたの。クロス」

喧騒を嫌う彼が、酒を嗜んでいるときに話し掛けてくることはあまりない。何かあったのだろうか。

「アレンがいなくて寂しいか?」

どうやら自分の心の内はバレていたらしい。ついこの間、彼が教団本部へ送ったアレン・ウォーカーは3年以上寝食を共にしてきた。世話の焼ける彼がいなくなってしまうと、どこか落ち着かない気分になる。

「少しだけよ。クロスが勝手に送るから私は別れの挨拶だって出来てないもの」

クロスの横暴は昔からだが、まさか何も言わずにアレンを教団へ送るとは思わなかった。

「態々お前が挨拶してやるほど、彼奴は成長しちゃいねえよ」
「そういう事じゃないのだけれど…」

相変わらず厳しい男だ。人情の低さで言えば、あの元死刑囚とそう変わらないのではないだろうか。