この一杯のために

「苗字、お疲れ」

それだけ言って渡してくれた缶コーヒー。憧れの理穂さんから貰えるならば、自販機のドリンク一本ですら宝物に見える。

「飲むのちょっと勿体無いな……」

そうは言っても飲むけどね。
プルタブを引いて缶を開けると、コーヒーの良い香りが鼻孔をくすぐった。理穂さんはいつもブラックコーヒーだったっけ。飲み切れるか不安に思いつつ、ひとくちゴクリ。

「……あ」

やさしさ、微糖。