水底で君を待つ

「あの、これ落としましたよ」

貴方のですよね?と紳士的に落し物を拾ってくださったお兄さん。ずいぶん高い身長に、鍛え上げられた筋肉のお兄さん。見た目の威圧感とは裏腹に優しく声を掛けてくださったお兄さん。ありがとうございますと慌てて受け取った後、「では」とだけ言って去ってしまったお兄さん。ろくにお礼もできず、連絡先も聞けず、二度と会える保証もない。でも、目立つお兄さんだったからもしかすると見つけられるかもしれない。そんな気持ちで自分は今、落し物を拾ってもらった場所で張り込み中。ああ、会いたい。逢いたい。あいたいよ。あなたの瞳が忘れられない。あなたの声を今でもハッキリ覚えてる。あなたの名前、年齢、誕生日、体重、血液型好きなもの嫌いなもの職業性癖エトセトラ。隅々まで知りたいよ。だから待ってます、毎日ここで待ち構えています。はやくあなたにあえますように。ずっとずうっと待ってます。

今日で13日目。あと三億年は待てます。