あの子は普通

今日は私が日直当番の日。
慌ただしく先に職員室へと向かった先生の元へ届けるために教材が詰め込まれた段ボール箱を抱えると、両腕にズッシリと重さが圧し掛かった。
ここから職員室までこの重い物を抱えて歩くのか。そう考えただけで少し気分も重くなる。そんな憂鬱な気持ちを跳ね退けるように一歩教室を出ると、ふと後ろから「苗字さん」と名前を呼ばれ、振り向いた。

「えっ、なに? 槙人くん」
「いや、それ」

持つよ。と言う声に返事をする間も無く、私の手の内にあった重みは風船のように浮かんで消え、空になった両手は無意識にそれを追ってわずかに持ち上げられた。しかし、荷物を追うのは手だけではない。私の眼は浮かぶ荷物を追い、その向こうに黒目を見つけた。槙人くんの真っ黒な瞳と視線がかち合い、そこで私ははじめて槙人くんが荷物を持ってくれたのだと理解したのだ。

「い……いいよ、重いし、悪いし……」
「重そうだったし、俺も先生に用事あったから」

職員室に持って行くんでしょ?と尋ねる槙人くんの表情はいつも通りこれっぽっちも変わらない。対して私の顔は分かりやすく赤らみ、動揺の色が浮かんでいることは傍から見ても明らかであることが自分でも感じ取れた。

「……じゃあ、お願いしマス……」
「うん」

並んで廊下を歩くだけでこんなにも胸がドキドキする。
会話なんかそれきり無いし、横目で見ても視線は合わないし、彼にとって私と関わることに特別な気持ちなんか何一つ無いのだろうとは思うけど、こんなことが起きるなら毎日日直でもいいかも、なんて浮ついた私の心はいつもよりハッピーなのでした。

これが少女漫画なら あのとき手が触れていた。