ネバーランドが滅びる日

「大人の階段、上っちゃう……?」

きっかけは酷く単純なものだった。
舞い上がったテンションで、その場のノリと勢いで出た言葉だった。重なった手の熱と浮かれた熱が二つ合さって、それが妙に心地よくて、それで、ただ目の前の異性の体に触ってみたいと思って、新しい遊びを見つけた子供みたいにはしゃいで、私も治良くんも、後先のことなんか考えず唇を重ねた。
それが間違いだった。あの時「うそうそ、冗談だよー」なんて一言でも言えていたなら、私達の関係は壊れることなく続いていただろう。少なくとも、幼馴染という間柄でありながら裸で抱き合うことなんてなかったはずだったんだ。

「ねぇ名前ちゃん、前々から思ってたんだけどさぁ……俺ら付き合っちゃう?」

あれから何度か体の関わりを持って、今もまた、ベッドの上で二人寝転がりながら情事の余韻に浸っている真っ最中。照れくさそうに、治良くんがはにかみながら爆弾を投じた。

「……何で?」
「え? いや、だって」

予想外に冷たい視線を投げ返された治良くんはあからさまに動揺して私から目を逸らし、言葉を詰まらせる。そんな反応されるなんて思ってもみなかったんだろうな。だって、今まで私達の関係は悪くなかった。あの一夜からも治良くんが会いたいと言えば私は会いに来たし、遊びたいと言えば治良くんは付き合ってくれたし、体を重ねたいと二人が望めば自然とそうなった。まるで恋人同士みたいな時間を過ごし、このベッドの上でだって、先程まで指を絡ませてキスをしていたんだから。

「無理だよ」

もうあの頃には戻れないんだから。
治良くんはまだ浮かれてハッピーなのかもしれないけど、私は初めて唇に触れたあのとき気付いたの。気付いちゃったの。

私達はまだ子供だったのに。