ファミリア

夜が肌寒くなってきた。夏が終わり、秋が来て、冬になっていくんだと感じさせる風が頬を掠めていく。
学校帰りの電車でバッタリ出会った電は、前に会った時よりまた筋肉がついたように見えた。アタシ達は今、昼間よりも人通りの少なくなった道を横並びで歩き、学校のテストがどうだったとか、友達が何をやらかしたとか他愛もない話をしながら自宅を目指しているところだ。
アタシと電は所謂幼馴染という間柄で、血の繋がりこそないけれど、そこには兄妹のような絆があった。
電は女性が苦手だと言う割にアタシに雑な接し方をする。でもそれは、幼い頃からアタシという人間を知っているからこそのものだ。一緒に山の中を駆けずり回ってカブトムシを捕ったり、その辺の木の実を齧ってみたり、時には喧嘩してアタシが電の頭にタンコブ作って泣かせたこともあった。
男女の幼馴染みモノにありがちな「大きくなったらお嫁さんに」なんて約束をしたこともなければ、一度だって二人の間でレンアイっぽい話になったこともない。だってもはや電は兄や弟みたいな存在で、電だってアタシを姉や妹のような存在だと信じて安心しきっていたからだ。

「電さ、好きな人できたって前言ってたじゃんね」
「おう」

突然どうしたとばかりにアタシを見る電をチラリと横目に見て、上手く言葉にできない声を喉から掻き出そうと一つ咳払いをした。

「んーと、アタシらはさー、なんていうかもう家族みたいなもんじゃん」
「そうだな」
「でもさ、一応男と女なわけなんだよね。そんでさ、世間から見たらこういうのやっぱそう見えたりするのかなって思ったんですよ。丁度昨日、テレビでそういうのやってて。カップルの勘違い修羅場がうんぬん〜って……」

ほら、誤解とかあったらやっぱ嫌じゃん?
無いとは思うけど。なんて、そう言うと電は意外そうにキョトンと眉を上げ、ぷっと吹き出した。人が一生懸命考えてるのに笑うなんて失礼な奴め。

「名前も気を遣うことあるんだな」
「馬鹿にすんなよ!」

拳で腕を小突いてみても、すっかり大きくなった電の体はビクともしない。あの頃はまだ、私達おんなじ位だったのにな。

恋は終わっても、愛は満ちるのだ。