ブルーベリー・ロケット

「治良くんはい、あーん」
「あ〜〜んっ」

おもむろに差し出されたスプーンの先をろくに確認もせずパクリと飛び付いてきた治良くんはその一口の後、驚きで睫毛をぱちぱちと上下させた。

「なにこれ!」
「ヨーグルトだよ。ブルーベリーヨーグルト」
「なぁ〜るほどね〜〜! このプチプチしたのそれかぁ〜!」

もう一口、と可愛らしくおねだりをする治良くんの口に、スプーンで掬ったブルーベリーヨーグルトを放り込んであげると、口内で果実を転がすようにして酸味を味わった治良くんが「ん〜」と上機嫌に鼻を鳴らした。

「ブルーベリーって食べると目が良くなるらしいよ」
「マジ?」
「わかんないけど。治良くんもブルーベリーいっぱい食べたらそのうち眼鏡いらなくなるんじゃない?」

もう一度ヨーグルトを乗せたスプーンを治良くんに向けると、先ほどまでの様子とは一転して口をへの字に曲げ難しい顔をした治良くんが「んー」と唸った。
一体どうしたというのか。考え込む治良くんへ向けていたスプーンを引っ込め、そのまま自分の口へと運ぶ。ヨーグルトとブルーベリーの酸味が心地良く口内に広がった。
訝しげに様子をうかがっていると、突然治良くんが眼鏡を外し、ズイ、と顔を近付かせてきた。鼻先が触れ合いそうなほどの距離。治良くんの眉間にシワが無いことから、視力の悪い彼が「ここまで近付けば見える」距離にいるのだということを表していた。

「視力悪かったら名前ちゃんにこうやって近付く口実できるから俺は今のままがいいなぁ〜って思うんだけど、どう?」
「…………ばかじゃないの」

月まで届きそうなほど、ドキドキ。