ミルク色の罠

「ね、龍臣くん。チューして」

突き出された唇にチュッと軽くキスを落とすと、彼女は嬉しそうに目を細めて笑った。
苗字さんはいつもこうだ。幾度となく唐突にキスをせがみ、腕を絡め、柔らかな体を押し付けて甘えてくる。それが二人きりの部屋ともなれば、より密接に、かつ濃厚になっていくのだ。

「ねぇもっと」
「……はい」

俺がこの甘えた声に逆らうことができないと知っていて、苗字さんはわざと囁く。せっかくの二人きりの時間。逆らうつもりなど微塵もないが、手のひらの上で転がされっぱなしというのは男として釈然としないものが少しある。

「ん。……ふふ、どうしたの?」

いたずらに押し倒した彼女の瞳には、今もまだ余裕の色が見えている。まるで俺がこうすると最初から知っていたかのように目を細めながら、わざわざそれを挑発するような物言い。彼女の髪に鼻を寄せると、シャンプーの香りで頭がクラクラした。

「……苗字さん」
「……」

名前を呼ぶと、俺と苗字さんの視線が交わった。余裕を保ちつつも、この先の行為への期待に満ちた彼女の瞳。沈黙こそが彼女からの「YES」そのものだということを知ったのは、割と最近の話だ。

「好きです」
「私も。大好きだよ」

彼女が伸ばした腕が俺の首に巻き付き、後頭部を抱え込む。引き寄せられるまま重ねた唇の先で、苗字さんは笑っていた。


一度知ったらやめられない