「こんな話聞いても何にもなりませんよ」

親戚の集まりで初めて佳樹くんと出会ったのは中学二年生の時でした。その頃からずっと佳樹くんのことが好きでした。でも、佳樹くんには既に好きな人がいて、その人もどうやら佳樹くんのことを好きでいるように見えました。実際、二人は想い合っていたんです。二人はそうは思っていなかったみたいでしたけど、私の目にはそれがよくわかりました。

「ある日」

あの人が結婚すると親から知らされました。佳樹くんとじゃなくてですよ。しかも、海外に行くんだとも言われました。

「私、嬉しかったんです」

このまま二人の気持ちが暴かれないままにあの人が手の届かない場所に行ってしまえば、佳樹くんを振り向かせるチャンスが巡ってくると思ったんです。何も知らなければ無いのと同じだから。だから私、嬉しくて、佳樹くんのところに行ったんです。そしたら佳樹くんは珍しく、すごく落ち着かない様子でソワソワしていて、何かあったんだとひと目でわかりました。

「何かあったの?って聞いたら」

べつに。って。でも、私わかっちゃったんです。なんでわかったのか不思議でしたけど、それでもわかっちゃったんです。あの人と会うんだなって、そう思ったら胸の中がグシャグシャに潰されたみたいに気持ち悪くなって、このままじゃ酷いことを言ってしまいそうで怖くなって、自分から訪ねて来たくせに適当な理由をつけて帰りました。それから毎日心配でたまらなくなりました。もしも二人が駆け落ちでもしたらどうしようって。馬鹿ですよね、私。ホント馬鹿ですよ。それから一ヶ月後くらいかな。あの人ね、本当にお嫁に行っちゃったんです。佳樹くんのこと置いて行っちゃったんです。

「それと同時にね、あの人、最後の最後に気持ちも置いて行っちゃったんですよ」

佳樹くんは何も言わなかったけど、それもまたわかっちゃったんです。それでもう、負けたって思った瞬間吐き気がして。

「最初から私ではダメだったんです」

こんな醜い心を持った私ではダメだったんです。それを気付かされて、その日はベッドでわんわん泣きました。遠くに行ってしまえと思った自分がたまらなく恥ずかしい人間だと思い知らされました。結局、そのあと私は佳樹くんに気持ちを伝えることも、彼が私を少しでも見ることもありませんでした。あはは、長々と語ってしまいましたね。これでこの話はおしまいです。どうもありがとうございました。………………。……………………。……………………。
やだな、最初に言ったじゃないですか。

踏みつぶした夜明け

「こんな話聞いても何にもなりませんよって」