「暫くぶりだね」
「はい。お元気そうでよかったです」

暖かな午後。紅茶の注がれたティーカップを前に僕達は向き合い、挨拶を交わした。
彼女とこうして僕の部屋で茶会をするのは本当に久しぶりだ。会えないか、と連絡をするのはいつも僕の方からだが、彼女がそれを断った事は無い。今回もまた、随分と待たせてしまった。

「ああ、そうだ。君に是非と思っていた本が手に入ってね」
「以前お話してくださった本ですか?」
「そう。これだよ」

僕は椅子から立ち上がり、棚の上に置いておいた紙袋を持って彼女の傍へと歩み寄る。テーブルの上に置いた紙袋を見つめた彼女は、ふと僕を見上げるとニッコリと微笑み、僕の手の甲を包むように手の平を重ねた。

「とても嬉しいです。ありがとう、苗字さん」

そう言って彼女は手を指先へとゆっくり滑らせると、僕の人差し指を軽く弄んでから離れていった。まるで蝶のようだと、僕もただ、君に微笑み返すばかりであった。

パ・ド・ドゥ

君は聡く、故に。


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