同じ花の咲いた春



「俺じゃダメなのか」

自分の恋心に気付いたとき、同時に失恋をした。「治良くん!」と友人の腕にじゃれつく苗字さんの瞳の色は、まさに恋をしている目そのもの。悲しくなるほどよくわかる。なぜなら俺も、あなたに同じ色の目を向けているからだ。

「ね〜え名前ちゃ〜〜ん!」
「なっ、なぁに? 治良くん!」

人懐っこい仕草で顔をのぞき込まれた苗字さんの頬が、ポッと赤く染まった。ああ、ダメだ。自分には向けられない赤が羨ましくてダメになる。

「お前ら仲良いなぁ」
「でしょでしょ〜〜! 名前ちゃんとはもうマブダチだし〜!」

治良から名前で呼ばれるたびに嬉しそうな笑顔を綻ばせる苗字さん。もしも、もしも俺があなたのことを名前と呼んだら、あなたは驚くだろうか。たった一瞬でも、俺を見てくれるだろうか。


諦めたくはない。壊したくもない。

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