◇宮野明美が好きな主人公
※BL要素と名前変換なし

side 赤井秀一


俺は彼が宮野明美に気があることを知っていた。彼は気さくな男で、話し掛けようものならいつだって笑顔で答えるものだが、宮野と話すといつだって無口になった。彼は心に準じて素直に行動することができないのをいつも恥じ、三度と行動に起こそうとするが成功したためしもなく、俺はよく彼の無口になるところを見る。見せるつもりが彼にはなかったろうが、普段の様子と違うのを見ると嫌でも察しはついてしまう。俺は恐ろしかった。彼は強い男だから何かに縋るようなものを見たことがなかった。しかし宮野明美に触れ、彼は変わってしまった。日に日に増す彼の恋心を見た時、嫌な汗をかいた。純粋な気持ちが彼を潤していたが宮野は組織に所属する。きっとこの女は死ぬだろう。短い期間なりに考えてもこの考察はいつまで経っても変わらない。この女が居なくなれば今の彼も無くなってしまう。
悪いことは立て続けに起こる。俺は彼の根を知りながら、宮野と付き合い始めた。そこに愛など無いと彼に知れれば気が触れてしまうのだろうか。もうすぐ知ってしまうその現実に彼はどう立ち向かうのか。同情の気持ちが湧く。哀れな男、悲しい者よ。
恐ろしいことに、俺も宮野に堕ちている。俺も馬鹿だし、彼も馬鹿だ。仕事に私情を挟むほど滑稽なことはないだろう。付き合っていることを伝えてから彼と連絡は取れていない。俺が嫌いになったのか、はたまた自死してしまったのか。連絡手段の断たれた今では確認することもできない。宮野は俺に笑いかける。世の中は非情だ。


prevnext

back