乖離


※安室透視点
※なんでも許せる方向け
※だいぶ雰囲気小説

誰もいない筈の家に帰ると彼はいつもベランダにいる。どう見たって不審者だろう。なのに納得する自分もいる。それまで忘れるのになまえを見る度思い出す、彼と同棲していることに。だけども安室は1度として彼が食事をとる姿を見たことが無い。なまえが安室に触れることも無い。会話をして、最後には玄関からいつも出ていくのだ。時々考えてしまう、「これは幻覚か?」それを考えるのは決まって彼が視界に入っていない時だ。なまえを一目見ると、心臓が鷲掴みされたような気分になる。「僕はこの人に殺されて最期を迎える」そんなことさえ浮かぶ。こいつは誰だ?安室はただ考えている。

「つらかったろう、安室君。」
「(辛い?この僕が?なぜ?)」
「1人なのだから。君は本当に可哀想な子だ」
「誰なんだよ」
「また次に会おう」

今日だって、いつものように玄関に消えていくなまえ。探ろうとしたことは何度もあった。なのに何故か、追いかけようとすれば体が動かなくなる。名前を訊けば玄関へ行ってしまう。しかし、安室に嫌な気持ちは無かった。安室の納得する言葉を与えてくれるからだ。承認欲求を満たしてくれるからだ。安室はそれに気付かない。
このことを誰かに相談をしたことは無かった。何故か?人と対峙する時になまえの事を忘れるからである。メモを取ろうが一歩外に出るとそれは只の紙屑となった。なんどでも言えるが、安室にとってこれは納得できることである。この生活が当たり前となっていたのだ。悲しい人。

「つらかったろう、安室君。」
「お前は……」
「なにも言わなくていい」
「お前はいつ消えるんだよ」

悲しそうな顔を浮かべるなまえ。安室はそれを見て、幸福な気分になった。思い出す、いつかの記憶。この人は自分が小さい頃に、──────

安室は彼が苦しげに俯くその姿が好きだった。手を伸ばすと、なまえは玄関へ消えてしまった。扉の閉まる音がする。
それで安室は幸せだった。


「( 彼は僕から離れていった者の一人だ )」


自己満解説(反転)↓
夢主は安室の恩人。死んだことで安室の心に傷を残し、ときたまイマジナリーフレンドのような形で出てきてしまっている、というもの。


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