ポリゴンコンフリクト 始動ノ章 一話
「入隊希望者、1492番、待たせたね」
こじんまりとした個室に声が響く。
あるのは上に取り付けられた複雑怪奇な機会と、その前にポツリとある椅子。
そしてそれに座る私だけ。
緊張のしすぎで正直胃が痛い。
「いえ、大丈夫です。続けてください」
「……わかった。では始める前に、本人確認をする」
そう言って紡がれたのは入隊志願書に綴ったもの。
氏名、生年月日、出身に現住所と志望理由。
「では最後の確認だ…御上春。君は、死ぬ覚悟と…人ならざる者になる覚悟はあるか?」
死ぬ覚悟と人ならざる者になる覚悟。
Pandoraに所属するということは命懸けで人々を守るということで…死ぬことだって良くあるってことだ…それに加えて…人ならざる者になる覚悟。
確か原因はかつて人が手に入れた対抗策によるものだったはず。
自分を電子化し、電子世界に存在するウィルスを倒すという方法。
自分を電子化できるよう再構築し、人間の姿形をした別の生物にするという事である。
もちろん、承知の上できているけれど…
外地で暮らしていた恐怖に怯えていた日々と、それを引き起こしていた元凶と相見える。という事を想像すると怖くて、逃げ出したいとも思う。
ゴクリと唾を飲み込み、汗が滲む手をグッと握る。
自分の気持ちをしっかりと言わないと…
「…正直…死ぬなんて事も変わる何て事も怖すぎて考えられてないです。けど、…私、前から決めてたんです。入隊できる年齢になったら絶対入るんだって、人を助ける双剣の英雄みたいになりたいから!」
双剣の英雄。お婆ちゃんが病死してしまった時、たまたま外地に向けて放送されていた電子世界の中継。
現実世界と同じ建物の上を縦横無尽に動き、ウィルスが手を出せずに倒されていく…無類なき強さ。
私はあの英雄みたいに、守りたい。
その一心で、危険を承知で内地まで来て、Pandoraに志願したんだ。
「…了解した。君を新しい隊員として歓迎しよう」
歓迎する。と言った途端、前にあった機械が動き出し、上からオレンジ色に輝く光が柱のように差した。
中には薄黄色に輝く多角形の物体。
「それはポリゴンと言っているものだ。怖いかもしれないが勇気を出して触れてくれ…そうすれば自動的に再構築が始まる。衝撃で意識を失うが痛みがある訳でない、後の事はこちらがする。…やめたければ後ろのドアから出てくれ。では…後ほどな」
ブツリという音と共に声は止む。
…辺りが静寂に包まれる。
「………これに触れたら…後戻りはできないけど…私もPandoraに所属できるんだ」
椅子から立って更に近づく。
ポリゴンに触れそうな所で手を止めて、目を閉じる。
脳裏に浮かぶのは映像で見た、双剣を振りかざし、人民を守っていた英雄の姿。
そして、自由に生きていいと言ってくれたお婆ちゃんの姿。
「…大丈夫、当たって砕けても…また、当たって行こう」
一度その言葉を呟き、覚悟を決めてポリゴンに触れた。
瞬間訪れた眩い光。
変形するポリゴンの姿を僅かに捉え、体中を覆う暖かな光を感じながら私は…眩い光に飲まれた。
後の事は全く覚えていない…
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ピッピッピッピッ
一定のリズムを刻む機械の音が聞こえてくる。
いつの間に寝ていたのだろうか?
ぼんやりする視界に少し困惑しながら上半身を起こす。
「…………ここ、どこ?」
結構広い空間には白いベットが何個も置いてあり、訳の分からない機械も所狭しと置いてある。
全く見覚えがない場所。
「私どうしてここにいるんだっけ?」
まだ覚醒しきって内頭で…
少しずつ思い出して行く。
そうだ私、ポリゴンに触れて気絶…しちゃったんだ。
「お、起きたみたいだねぇ?」
「え?…ひぇっ!?い、いつの間に!?」
急に話しかけられたと思ったらそこそこ歳を重ねてそうな白衣を着た男性が横に立っていた。
さっきまで誰もいなかったのにどうやって…?
「あぁ、驚かせてごめんな。おじちゃんは雛森孝助(ひなもりこうすけ)っていうんだ。Pandoraの職員で外科見たいな事してるんでよろしくぅ」
ひらひらと手を動かし微笑むちょっと胡散臭そうな人だけれど…外科というくらいなのだからきっといい人だろう。
「は、はい。私は御上春と言います。よろしくお願いします、雛森さん」
「うんうん、元気そうでよかった。何か覚めないから心配してたんだよねぇ」
「え?」
覚めないから心配してた?
それじゃまるで普通はすぐ覚める見たいな言い方じゃ…
「んー、ま、なんか質問したそうにしてるけど…先答えとこうか。ポリゴン触ったら気絶するまでは一緒だったんだけど…覚めるまでの時間がすっごい遅かったんだ。前例見ないぐらい」
「え!?わ、私平気ですか…?」
前例見ないぐらいってかなり大変じゃないだろうか?物凄く不安だ。
「へ?あぁ、いやそういうわけじゃないから大丈夫大丈夫」
「大丈夫…なんですね。よ、よかった…」
「あっはは、不安にさせて悪かったな。会話している所も異常なさそうだしそろそろ本題でも行くかね」
本題?…あ、これからの事かな?確かに何も言われていないしどうしていいかも分かってないし…
「これからある人連れてくるからちょっと待っててくれるかな?」
「…?わ、かりました」
雛森さんは私の頭を少し撫でると部屋から出て行ってしまった。
…何だ。誰か連れてくるのか…てっきりこれからの事説明してくれるのかと思っていたけど……
これからどうなるのかな…
やっぱり不安はしばらく続きそう。
「あまり悪い事が起きませんように…」
それを祈るばかりだなぁ…
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