さいごのひ

 淡い青色のワンピースを身にまとって、透き通るガラスのピアスを耳に飾る。髪の毛をハーフアップにして、毛先を少しだけくるん、とカーブを作って、動きやすいヒールのない真っ白なパンプスを選んだ。

「準備できた?」
「うん! お待たせ」

 真っ黒なサングラスを少しだけずらした悟がひょい、と扉から顔を覗かせるから、私はにっこっりと笑って返事をする。
 私の返事を聞いた悟は長い足を動かして傍まで来たかと思うと、そっと膝をついた。膝の上に置かれた私の手を取って、柔らかい唇を押し当てた。

「行こうか、お姫様」
「キザだよ」
「似合うでしょ?」
「似合うからムカつく」

 むっと頬を膨らませると「拗ねないでよ」と大袈裟に眉を垂れさせた。そしてほら、と手を引っ張って立ち上がる。勢いのまま悟の胸に飛び込めば優しく抱き締められて胸の奥がくすぐったい。くすくすと私が笑えば、悟も同じように笑った。

「そろそろ行くよ。時間もないし」
「……うん」

 ▽

 車で数時間走った場所にある、人のいない海岸。
 波の音が心地よくて、潮の香りがする。赤く染まった太陽が水平線を照らして、もう少しすれば完全に沈んでしまう。
 隣に並ぶ悟は私の手を取って、綺麗だねぇ、なんてのんびりとした口調で呟いた。特徴的なサングラスは車の中でお留守番らしい。
 ――海に行きたいと言ったのは私だった。特別な思いでがあるわけでもない。特別好きなわけでもないけど、なんとなく、最後に来るならここだと思った。残念ながら悟のような綺麗な蒼は見た目を変えてしまったけれど。
 ざぶん。ざぶん。波の音に耳を傾ける。
 人のいない海岸はとても静かで、それ以外は何も聞こえない。隣にいるのをわかっていても、消えてしまうんじゃないかと不安になって繋がった手に力を込めた。悟は何も言わずにただじっと前を見つめてる。

「こわい?」

 不意に、悟が口を開いた。ちらりと横目で彼の顔を見つめても視線は交わらない。遠くを見つめるように、私も前を向いて綺麗な赤を見た。

「こわくないよ」

 その言葉通り、私の声は震えてない。

「そっか」

 会話はそこで途切れた。
 私たちの間には、心地よい沈黙が流れている。時折ふわり、と風が吹いてワンピースを揺らした。

「こわくないよ」

 さっきと同じ言葉で沈黙を破る。悟が私の名前を呼んで、今度は視線がぶつかった。何にも隠されていない、何にも侵されることのない綺麗な透き通った蒼が、じっと私を見つめる。
 光が差し込んだその蒼
は、きらり、きらりと輝いて見えた。
 ぎゅっと、今度は悟が手に力を込める番だった。私の言葉が嘘か本当か見極めるように、逃がさないように。

「こわくないよ」
「うん」
「だって、悟と一緒だもん」

 ゆるりと頬を緩めて笑うと、悟も目を細めて笑った。
 私は明日、五条になる。





Red Moon