君に、君が、君と

「そろそろいいんじゃない?」

 後ろから抱きしめるように座って、何が楽しいのか私の指をひたすらに遊び続けていた悟が突然口を開いた。

「何が?」
「んー」

 にぎにぎ。にぎにぎ。
 マッサージをするように握られて、それがなんだか気持ちいい。
 ……それにしても。
 悟がこうやって言葉を濁すことは珍しい。いや、濁すことは普段からあるけれど、少し、違うというか。

「そろそろ、さ」
「だから何がそろそろなの?」
「……わかんない?」
「うん」

 んー、と、悟はまた間延びした返事をした。相変わらず握る手は止まらない。

「不思議だよねぇ」
「……どうしたの」
「昔はあんなに興味なかったのに」
「うん?」

 不意に、悟が動きを止めた。
 ずっと握っていた手を取って引かれるから、自然と顔もそちらに向く。じっと私の手を見つめる悟の顔が、あまりにも穏やかで驚いた。

「結婚、しよっか」
「え?」
「付き合って長いじゃん、僕たち」
「そ、うだね……?」
「だから、そろそろいいかなぁって思ったんだよね」

 ちゅ、と可愛らしいリップ音と共に、手の甲に口づけが落とされる。
 今更それに照れるような純粋さは持ち合わせていない。
 ただ、そう。
 悟が結婚を考えていたなんて思ってもいなかった。いや、そりゃいずれはすなるんだろうけど、でも、まさか悟の口から聞けるなんて。

「なーに。今更断る気?」
「……ちがうよ」
「じゃあ黙ってどうしたの」
「うれしいなって」

 結婚を考えていてくれたことが。それを、伝えてくれたことが。
 よく聞く夜景の見えるレストランだとか、花束だとか、そういうものは一切ない。でもそれが逆に悟らしくて愛おしさが胸に募る。

「……じゃあ、僕と結婚してくれるの、おまえ。僕が言うのもあれだけど大変だよ?」
「それこそ今更でしょ」
「それもそうだ」

 ふは、と悟が笑って、私も笑う。
 二人して力が抜けていくのを感じた。





Red Moon