キスしていいですか

 ――「五条先輩! 好きです! 付き合ってください!」
 ――「ハ……? ……、いいけど」

 先輩と付き合い初めて早一ヶ月。でも先輩は強いから忙しくて、同じ任務になることが無ければ高専でもなかなか会う事ができないでいた。
 それに、先輩は私のことを好きじゃない。
 可能性でもなんでもない、事実だった。じゃあなんで付き合ってくれたの? とは思うけど、先輩もきっとソウイウお年頃だからだろう。知らんけど。どうやら前の彼女とも早くに別れたらしいし、溜まっちゃうんだろう。知らんけど。

 ▽

 一ヶ月、なかなか会うことが出来ないとはいえ、全く会っていない訳でもない。夜高専の敷地内を散歩していれば夏油先輩といるところを見かけるし、七海をからかうために私もいる教室にやって来るから、顔を見ることはあるし、もちろん喋ることだってある。それなのに、先輩は手を出してこない。
 なんで? 先輩めちゃくちゃ手出すの早そうなのに。というか何もしないならなんであの時いい≠ネんて答えたの。
 ちゃんと私は付き合ってと伝えたはずだし、それに先輩も肯定を返してくれたはずだ。記憶違いでもなんでもない。だって私はちゃんと覚えてる。
 気持ちが欲しくない訳では無いけど、でも、どう頑張ったって私には無理だから。だからせめてと、都合のいい女にでもなれればと、次の彼女までの繋ぎでも、と。それなら例え身体だけでもいいんだと。
 そう、覚悟した告白だったのに。

「せんぱーい!」

 ふよふよと跳ねた白い髪が見えて、一直線に走って行く。呼ばれて振り返った先輩の胸に飛飛び付いて、あれ? 首を傾げた。

「勢い強すぎんだろ」
「…………?」
「なんか言えよ」
「さ、さわれてる……?」
「はァ?」

 体を離して、ペタペタと触る。布の感触も、先輩のあたたかさも自分の手に伝わって、困惑しながら先輩の顔を見た。
 な、なんで? 先輩って術式で触れないんじゃないっけ……?
 確か七海もそう言ってた。七海がこんなくだらない嘘をつくはずがない。それじゃあ今触れているのはどうして?

「なんで……?」
「何が?」
「先輩、触れないって、聞いた」
「誰に」
「ななみ」
「ふーん」

 アレッ? 答えてくれないの!?

「別に、……おまえだし」
「……ぇ」

 答えてくれたと思ったら予想外の言葉で驚く。目を丸くして呆然としてしまったけど、こんなアホ面見られたくはない。すぐに切り替えて、いつも通り笑顔を浮かべた。
 そう言うならもっと触っていいよね!

「せんぱぁい! それって私が彼女だからって事ですか!? ねえねえ!」

 彼女≠フ意味合いは、先輩とは違うけど。でも言葉だけで見たら正真正銘私が彼女なのだから許して欲しい。それを良しとしたのは先輩の方だし。あとそんな調子に乗るようなことを言っちゃう先輩が悪いので、やっぱり私は悪くない。

「……そうだよ」
「え、ぇ…………?」

 どうせ調子に乗るな≠セとか、うるせえ≠セとか、そういう言葉を吐かれると思っていたので困惑がそのまま声に出てしまった。
 え、なに? この人本当に先輩で合ってる? 大丈夫? 先輩は先輩でも夏油先輩の方だったりしない?

「んだよもっと喜べよ」
「ちょっと、予想外すぎて、困惑してます」
「……なに。お前、俺の彼女、じゃねぇの?」
「彼女! です! けど!?」
「じゃあ困惑なんかせずに喜べばいいだろ」
「先輩熱でもあります!?」
「ねーよ!」

 わ、わかんない。今日の先輩、わかんない。普段こんなこと言わないし過去の彼女たちにも言ってるのを聞いたことがない。
 でも、でも、やっぱり私はどうしたって先輩が好きなので、折角だからもうちょっとぐらい調子に乗らせて欲しい。

「せんぱい、って、もしかして、もしかして、なんです、けど」
「なに?」
「……結構、私のこと、好きだったりします…………?」

 後輩。後輩としての意味で聞いたから、と自分に言い聞かせた。私と同じ好きを期待してしまったら、その後が怖いから。後輩としてなら、嫌われてはないはず、たぶん、おそらく、きっと、

「……じゃなきゃ、付き合わねぇよ、バカ」

 白い肌に、赤は良く映える。
 それはきっと私も同じだった。

「……ちゃんと、好かれてるみたいで、……びっくりしました……」
「今までなんだと思ってたんだよ……」
「次の彼女までの繋ぎ……? 発散相手……?」
「お前が俺の事をどう見てるかはよーくわかったツラ貸せ」
「彼女に言うセリフじゃないですよ!?」

 彼女、彼女。そっかぁ彼女かぁ。
 自分で言っておいてニヤけてしまった。ちゃんと彼女なんだ、私。先輩もそう思ってくれてるんだ。へへ。多分私、今が一番幸せを実感してる。

「だらしない顔」
「先輩も好きでいてくれたのが嬉しくて!」
「へーへー」
「顔赤いですよぉー!」
「お前に言われたかねーわ!」
「んへへ」

 あ、ダメだ。幸せすぎる。幸せすぎるはずなのに、もう次が欲しくなっちゃう。でも今なら許されそう。許して欲しい。だって幸せだから。

「ねえねえ先輩」

 私、欲張ってもいいですよね!





Red Moon