「ねえ真島くん、ヤクザの話、聞かせてよ!いいだろ?いいよね、ありがとう!」

「やぁだもう、物騒〜」

…あかん、今のこいつはお客様や。平常心平常心…

「お客様、お冷やをお持ちいたしましょうか?」

「お願いします!刺青見せて欲しいな!だめか、じゃあドスもってる!?」

うぜえ。どないしたろかこのドアホ。

「ひっく!やばい吐きそう、お手洗いかりるね!」

ふらふら立ち上がると便所とは真逆の方向へ歩いていく。
そのまま真っ直ぐ柱にぶちあたり、「あ!ごめんね、怪我はないかな!?」と喚き始めた。

「ぷっ…かわい〜ですよねぇ、名前さん」

「どこがやねん。飲みすぎやっちゅうの」

「えぇ?だって酔っても偉そうにしないし、お触りもしないし、お金いっぱいくれるんですよ」

「あいつは四六時中酔っ払っとんねん。ハァ、しゃあないなぁ…お客様!」

まだ柱に向かって謝り続けるアホの元へ向かう。何故か会話が成立しているらしく、話は今期提出された租税法案にまで及んでいた。

「らかぁね、経済的によゆーのある国民から徴収する税の……ぉ、やべでる」

「便所行けボケ」

たった今真島くんにケツを蹴り上げられた俺の名前は名前。
朝起きてウイスキーを飲み、昼飯にビールを飲み、晩酌に日本酒を飲む男である。勿論それ以外の酒も大好きである。
酒をこよなく愛しまた愛され、時折肝臓に逆襲されるような、刺激的で楽しい日々を送っている。


「で?また今夜も来るんかいな」

「ん〜…」

俺はお昼時にはよくラーメンをすすりながらビールをあおっているのだが、今日は偶然真島くんと一緒になった。
お前が来んならしこたま酒仕入れなあかんねん、とスープを啜りながら真島くんは言う。
キャバレーグランドの支配人たる彼は、このご時世珍しいくらい生真面目な男だと思う。いつもありがとう。
あそこはいつも煌びやかで、女の子も可愛くて、何より高価で上質な酒が飲める。
だが俺の持論として、贅沢に慣れた人間は真に美味しく酒を嗜めないと考えている。
だから、軽率にも毎日あそこに通うことはなるべく控えたい。

「う〜ん…今日はやめとくよ、ごめんね!」

「あっそ」

真島くんはしつこい営業トークを繰り広げるでもなく、ラーメンを平らげるとさっさと店を出て行った。

一度断れば引き下がるその姿勢、謙虚!さすが真島くん!




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