「これで最後かな」
私はまとめていた荷物を置き背伸びをした。ほとんど物がなくなった部屋をゆっくり見渡すと、今までの壮絶な非日常が走馬灯のように思い出された。
嘘だと思われるかもしれないが、本当にあった事実。
…この世界はほんの”一瞬”だけ滅んでいた。
とある人類悪と呼ばれるものによって。
私はその人類悪とカルデアの一員として何とか全力で戦い、そして無事に生き抜いた。
カルデアとは「人理継続保障機関フェニス・カルデア」という未来を保障するための機関という、はたから見るといかにも怪しげな名称だが、魔術師が関わっているものなんてそんなもんだろう…というのは偏見だろうか。
私がなぜそんな機関の一員になれたかというと、先輩についてきたからというほかない。
カルデアはアニムスフィア家が管理する国連承認機関なのだが、正直詳しい話や難しい話は分かっていない。そんな状態でよく組織の一員になれたなとは思うが、私は就任して間もなくとある事件に巻き込まれた。
…それが人類悪が起こした「歴史への介入により人類史が焼却される」というなんとも笑い事では済まされない途方もない事件だった。なぜそのような事件が起きたのか未だに私は理解していないが、ようやくそれらの事件が終わったということはわかった。
人類最後のマスターと呼ばれた少年、藤丸立香が「グランドオーダー」を行いデミ・サーヴァントのマシュ・キリエライトという少女と共に世界を救った。
それこそ物語のような出来事が、私の目の前で繰り広げられていたのだ。
私はたまたま人類悪が起こした事件の隅っこで生き残り、あまり役に立たない頭をフル回転させ先頭に立ち世界を救うべく戦い続けた彼らのサポートを行った。本当に大したことはできなかったが、それでも一緒に戦っていたんだと言いたい。
ここまでの経緯をざっくりと思い浮かべつつ、私は何気なく窓を見上げた。
雪が舞う空を見上げながら、こことはもうお別れなんだと改めて思う。
長い長い一年がようやく終わり、カルデアのレイシフト技術は凍結し、一緒に戦ってくれていた英霊達もダ・ヴィンチさん以外は退去した。ちょっとしたお別れ会のようなものも行い、少し寂しそうだがずっと笑顔でお礼とお別れの言葉を口にする藤丸君が印象的だった。そんな中、私が泣くわけにもいかなかったが、優しく「お疲れ様」と声をかけてくれた英霊もいて少しだけ泣いてしまったのはここだけの話だ。
後数日もしたら、カルデア内に特別調査が入るらしいが私と一部の人はそれよりも先に実家に帰ることが許された。一応監視はつくらしいがそれでもようやく家に帰れるのだと思うと喜びのほうが勝った。
「…よし」
私は息を大きく吸いぐっと体に力を入れると、荷物を持ち部屋を出た。
ここに来ることは二度とないだろう。
ふと、机の上に置きっぱなしにしていた本が目についた。
閉じられた本の隙間から除く小さな栞には薄い桃色の花弁が褪せてはりついていた。
私はそれを見えないように本に差し込みなおすと今度こそ部屋を出た。
「…さようなら」
本は置いたまま、私は込み上げる様々な感情をその一言でしまい込んだ。
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