fgo-SS-
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 皮肉なことだ、と私は冷静に思った。
 目の前で苦しそうに歪んだ目を仮面の隙間から私に向けている青年は、ゆっくり私の首に回している手に力を込めた。

 「…なぜ、逃げようとしないのですか」
 「逃げてほしいの?」
 「…!…私は、貴方を殺そうと、しているのですよ」

 今にも零れ落ちそうな涙。私はそれをぬぐおうとはしなかった。彼の頬を伝いそっと流れ落ちていくのをただ黙って見ているだけだった。
 サーヴァントの彼が人間の私を殺すことなんて簡単だろう。もっと言えば、今から頑張って逃げ出そうとしてもすぐに捕まるし私は職員だから令呪なんてものがあるはずもない。だから逃げ出さない、というわけではないのだけれど。
 美しく光る淡い紅碧に深くにじむ紺桔梗。濡れているせいか尚更美しい。
 よくこんな瞳に見つめられていても冷静でいられるなぁ私はと、他人事のように考える。
 何も言わず動かない私にしびれを切らしたのか、彼―*蘭陵王は背もたれに押し付けるように腕に力を込めた。

 「…本当に、貴方は私達を裏切っていたのですか」
 「そうだよ」
 「…っ」

 彼の問いかけに私はすぐさま答えた。
 私はカルデアにいながら、クリプター側についた人間だった。
 理由は単純明快、最初からカルデアに協力する気なんてなく、ただ何となくここで働いていて、なんとなく爆発に巻き込まれずに済んでやっと世界が救えてこんな場所からおさらばできると思ったら次は世界を白紙にする?もう訳が分からない。
 めんどくさい、どうでもいい。でも与えられたからには仕事はする。
 そんなクズみたいな考えで私はずっといたのだ。
 …もしかしたら、このカルデアに来て働いているうちにどこかが壊れてしまったのかもしれない。こんなに壮絶な人生を送っていればしょうがないんじゃないかな、なんて。そんなこと考える時点で私は可笑しいだろう。
 そんなとき、あのケモ耳秘書に声をかけられたのだ。皆がシャドウボーダーに乗る前に。安息の地を与えてくれるというよくわからない内容だったが、私は承諾をした。きっとここから逃げたかったのだ。
 私は適当に情報を流すだけでいいと言われていた。正直、本当にどうでもいい内容しか流していなかった気がするから私の情報が役に立っていたのかは定かではない。
 シンの攻略が無事終わりいくつかの小規模特異点の調査を行っていたある日。
 私はいつものように適当に向こうから与えられていた電子端末に情報を書き込んでいた。一方通行でこちらから送ることしかできないものだから私が気が向いた時に情報を送るというだけのくだらないようなものだが。しかし、その端末が他の職員に見つかってしまったのだ。そこから持ち主はすぐ私だとバレてしまい、構造を調べようとなった時に隙を見て藤丸さんのレイシフトに便乗し適当なところへと飛ばされたのだ。自分の身体がなぜ堪え切れたのか、未だにわからないがもう本当に、そういうことはどうでもよかった。
 とりあえず適当に逃げていたが、数人のサーヴァントを調査隊として派遣したらしく薄暗い廃ビルのすみっこで逃亡人らしくおびえて過ごす…なんてことはなかったがぼーっと汚い空を眺めていたらこのサーヴァントに見つかってしまった。
 一応その場から離れようとしたが、それよりも早く彼の手が私を掴みぼろぼろのソファに押し付けるように座らせられた。
 …そして今にいたる。
 どんな指示を受けているのかわからないが、おそらくこの様子だと『殺せ』と指示されているのだろう。
 正直、いろいろ面倒だからこのまま殺されるのもいいかなーなんて思う。

 「殺さないの?」

 私が問いかけると、蘭陵王はゆっくりとこちらを見た。
 彼がなぜ私を殺さないのかがわからない。数回、たまたま出会った彼にお茶を入れてあげていた記憶はあるが、自分が飲むついでだし彼だけにしていたわけではない。

 「…それは、『死にたい』という意味ですか?」

 なるほど、そう聞こえるのか。なら私は迷わず答えていいだろう。

 「うん」
 「そう、ですか」

 そのまま蘭陵王は座っている私にさらに近づき、またがるようにしてソファに膝をつく。私は自然と彼を見上げる形になり背もたれの上に頭がのせた。すると、彼の手が片方離れた。不思議に思い見ていると、蘭陵王はそのままつけていた仮面を外し、しっかりと私のほうを見据えた。
 より一層美しい相貌が見える。
 ああ、きれいだな、まるで人形のよう。

 「…貴方は」
 「ん?」
 「貴方は『死ぬこと』を望んでいるのですよね」
 「そうだね」
 「…それでは」

 仮面を横に置いた手は再び私のほうに向かう。
 このまま殺してくれないかな、だってその方が楽なんだし。
 きっとまた首を絞めようとしてくるのだろうと思っていたが、彼の手は私の首元にはいかずそのまま通り過ぎると優しく目元を覆い隠す様に置かれた。

 「え、」
 「貴方を殺すわけにはいかなくなりました」
 「は」

 「どういう意味か」と問いかけようとしたその時、開きかけていた口に何かが重なった。
 さすがに驚いて彼を突き飛ばそうとするが、体制のせいもありサーヴァントに力で勝てるわけもなく少し彼の身体を揺すっただけだった。

 「ん、っ…!」

 塞がれた口から息が漏れる。
 なぜ、私は彼にキスをされているのか。意味が分からない。
 どれくらい時間がかかったのかわからない。正直ものすごく長い時間だった気がする。
 唇はそっと離れ、私の視界を覆っていた手は外された。

 「…っ急になんで」
 「『死』を望んでいるなら、それを叶えるわけにはいかないでしょう?」
 「は…」
 「それでは罰になりませんから」
 「まって、本当に何言って」
 「マスター達から言われているのです」
 「…何を?」
 「『見つけた後の判断は見つけた人に任せる』と」
 「意味わかんない」

 なんだその適当な内容は。一応私は向こうに情報を流していた裏切り者なんだけど。
 今日食べたものとか、起こった特異点についてとか、新しいサーヴァントの情報もある程度流していた。
 どうでもいい内容もあるがそうでないものもあるし…、いや、その前に。

 「今の、何」
 「何、とは」
 「いや、可笑しいでしょう。さっさと殺しなよ」
 「…殺しませんよ」
 「なんでよ」

 ようやく暴れだそうとした私だったが、まあ当たり前だがすぐに体を押さえつけられ動けないようにされる。
 
 「言ったでしょう、言うとおりにしたら罰にはならないと」
 「いやなにその罰って」
 「私は貴方を見つけ次第、殺さなければいけないことも考えました」
 「それが正しいと思うけど」
 「ですが、それでは意味がない」
 「ええ…」
 「一瞬で楽にしては意味がないでしょう」
 「うわぁ、顔に似合わずサイコパスなんだね」
 「なので」

 最初に涙を流していたとは思えないほどの笑みを浮かべて彼は言い放った。

 「見つけた私が責任をもって、貴方を生かし管理することにします」


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