また、泣いている。
「もう、また脱出できなかった…!!」
頬をぷっくりと膨らませて庭のベンチの足をガンガンと何度も踏みつけているその姿は何とも言えない。…正直子供っぽいというか、大人げないというか、哀れというのか…。
「…なに」
「わ?!」
ぶすっとした顔をこちらに向け唸るような声。その声に驚き思わず半歩下がってしまう。そんな僕の様子を見て更に機嫌を悪くしたのか眉間のしわを更に深くしてこちらに歩いてきた。
「なんで逃げるの?」
「え、あ、いや…その…」
なんともこれは面倒くさい状況に合ってしまった。
そもそも僕と彼女はあまり話したことがなければ一緒にゲームに参加したことも数えるほどしかない。更に言ってしまえばゲーム中もすれ違う前に彼女は気づけば椅子に縛られていて、気づいたら飛ばされている。
…どれだけハンター運に恵まれないのだろうか。
とにかくこの状況はいただけない。何とかして彼女をなだめて一刻も早く彼女から離れたい。
「いえ、その…お疲れ様です…」
「…別に、疲れてないもん」
「え?あ…えっと」
「だって、私すぐに見つかってすぐ飛ばされちゃうから。皆より早くここに戻ってくるし、その間ずっと…待ってるだけしかできないから…」
「!?」
「私…弱い…子…だから…」
「え、あー!まって、泣かないでください!」
「…っ、ひっく…うぅ〜…」
「えぇ、ど、どうしたら…」
目の前で急に泣き出すナマエにどうしたらいいのかわからなくてわたわたしてしまう。こういう時どうしたらいいんだ!?というか、いつもならこの時間他にも誰か庭にいるはずなのにどうして今日に限って誰もいないんだ…!
声を抑え込むように泣いているナマエは本当に悔しそうで、少し胸が痛む。小さく聞こえてくる声には「私のせいで」とか「皆の邪魔しちゃって」とか「ごめんなさい」とか、そんなに思い詰めていたのかと思うような言葉ばかりだった。
僕には正直彼女を勇気づけられるような言葉は言えないけど、とりあえず何度も目を擦り続ける手を止めることにした。
やんわりと握った彼女の手は思いのほか小さくて少し驚く。
僕の行動に驚いてか涙で溢れている顔がそっとこちらを見上げた。その表情は相変わらず悔しそうに歯を食いしばっていて苦しそうだった。
なんて声をかければいい?僕はこの場から離れられさえすればいい、そのはずだけど。そんな顔を向けられると少し息苦しい。
彼女の表情は本当にとても”生きていて”、それがまさか美しいと思うだなんて思ってもみなかった。
だから、目をそらしてしまった。
自分の視界に入らないように、とっさに手を引っ張ってしまった。
「…え?」
「…ん?」
そういえば、僕は彼女の手を握っていた気がする。そのまま引っ張ってしまったから、ナマエは特に抵抗もなく僕のほうにぽすん、とぶつかった。
「…!」
とんでもないことをしたと気づいたが、気づいてしまったせいで逆に体は思うように動かなくなってしまった。別に引き寄せるつもりはなくて、そのまま抱き寄せるつもりもなかったのだけれど。
控えめにぎゅっと握られた服にドキッとする。
小さな嗚咽はまだ聞こえる。
「…よく頑張ったね」
小さく小さく呟く。
僕はぎこちない動きで恐る恐る彼女の背に手をまわした。
→