恋じゃないわ


「夏目貴志×クラスメイトのちょっと変わった女の子」






「ねえ、見えるの?」

久々に誰かに話しかけた時の第一声はこれだった。

普段なら興味が湧かないごく普通に見えるクラスメイトの男子…夏目貴志。彼が転校してきて女子達は影で儚げで他の男子と雰囲気が少し違って素敵だと言っていたけど私は大して気にもしなかった。

そんな彼に興味が湧いたのはとある日の事だった。学校帰りに買ってきてほしいものがあると言われていたのでのんびりと帰り道じゃない道を歩きながら店に向かおうとした時に走ってる彼を見つけた。それがただ走ってるなら何も思わなかったんだろう…だが彼は時たま後ろを振り向いて怯えたような瞳をして走っていた。

声をかけたりするわけでもなく走ってる彼の背中が見えなくなるまで立ち止まって見つめていた。
なぜ立ち止まってまで彼を見つめたのかはすぐに分かった、あの怯えた瞳に興味が湧いたからだと。

それから彼をバレない程度にこっそりと観察していれば何もないところを見つめたり、少し口を動かしていたから多分何かと話していたり…最初に抱いた「普通の男子」というイメージはすぐに「何かが見える普通ではない男子」に変わった。

誰かとつるむ訳でもなく一人でいる事の多い彼は本当に儚げで少し寂しそうに見えて…それが余計に興味を惹かれた。
一人でいる彼に話しかけるのは簡単だった。またいつものようにどこかを見てる彼に背後から話しかけた。そしてそれが冒頭に戻る。

「え…」

私の言葉に少し困ったように戸惑うような顔をして言葉を詰まらせる彼…夏目氏は目だけで「見えてます」と白状してるようなものだときっと気づいてない。
けどそれには気づかないふりをして私は言葉を続けた。

「見えるの?幽霊。」

何もないところを見る場合見えてるものはだいたい幽霊か妖怪か…それか本当にありえないけど妖精とか。そんな類だと思うけどここはオーソドックスに幽霊を出せばあからさまにホッとしたような顔をした夏目氏。
なんだ、見えるのは幽霊じゃないのか。

「いや、見えてないよ…」
「そう。」

まあ深くは聞くつもりなんてないため否定されればそれで終了。とりあえず彼には謝っておく。

「変な事聞いたね、ごめん。」
「大丈夫…確か同じクラスだよな?」
「あ、知ってるんだ。」
「席近いから…いつも外を眺めてるよな。」
「うん、面白いことないかなって。」

夏目氏は変な質問をした私に対して怒るわけではなくふわりと笑って普通に許してくれた。
許した事もだけどその前にクラスメイトの中で絶対的に影がうすい私を知っていたことに驚いた。

「面白い事?」
「そう、なんでもいいから。でも夏目氏が私の事を知っていたことが今一番面白くて驚いたことかな。」

私がそう言えば夏目氏は「何だそれ、」と少し苦笑して…それを見れば私も自然と笑っていた。

これをきっかけに夏目氏とは少しだけたまに会ったら話す程度の仲になった。そんな生活が1ヶ月くらい続いた…けど夏目氏は急に怪我をしたらしく入院してからそのまま学校に来る事もなく転校していった。

その知らせを聞いたのは本当に突然だった。
別れとかも言ってないけど特にさみしいとは感じなかった。またいつもの日々に戻った、ただそれだけ。

なのに、

「……モノクロ、」

いつも見ていた窓からの景色がすごく灰色がかって見えた。夏目氏を観察していた頃はまだ色づいていた方だったのに。

「それってさ、好きだったんじゃない?」

急に変わった景色の見え方を知人に相談すればそんな答えがすぐに返ってきた。
恋?そんなの知らない。

それにあれは、


「恋じゃないわ」


ただ興味が湧いただけ。
いなくなったのならそれはそれでおしまい。
そう思ってるのに頬を伝う何かは止まる気配がなかった。

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