「あーあ。降ってきちゃった」
ぽつり。と呟いただけだった。片手にビニール袋を持って、買い物を終えたシャルナークはアジトへ戻る前に空から降り出した雨を見上げて小さな息を吐いた。
雲行きが怪しいなと感じていたがここまで早く降り出すとは。買った物は濡れるが仕方ない。生まれ故郷では雨も嵐も凌ぐことなんて当たり前だったし特に何も気にせず足を進めようとした時だった。
パラパラとビニールに跳ね返って響く音が隣で聞こえたと同時に、自分の頭に差し出された柄の部分、細い手と腕を辿れば若い女性がこちらを見上げていた。
「濡れちゃいますよ」
背の高いシャルナークに合わせるように腕を伸ばして傘を差し出す彼女に呆然とするしかなかった。使ってください。という言葉。
別にいらないんだけどな。濡れてもいいし。そんな事を考えて口にはしないけど。
「平気ですよ。すぐ近くなので」
「ダメですよ。風邪ひいちゃいます」
「僕鍛えてるからこの位じゃ体調悪くなりません」
「鍛えてても風邪ひく時はひきますよ」
「大丈夫ですって。それにこれ使ったら君のがなくなるでしょ?」
「私折りたたみあるので」
顔に似合わず頑固な女にシャルナークは困惑するしか無かった。それに見たところ折りたたみなんてない。彼女は片手に買い物したであろう紙袋しか持っていない。
何故か意地になって受け取らないようになってしまった。
「じゃあ君が帰ったら僕も帰る。ほら、折りたたみあるんでしょ。出しなよ」
「……えと、もう少ししたら雨上がるみたいなので待ちます」
「はぁ。……じゃ、僕も上がるの待つ」
嘘だ。この雨は当分は止まない。僅かに匂うその自然の空気に思った。
空を見上げる彼女の横顔をちらりと見る。死と隣り合わせの日々を送っているシャルナークにとってこんな虫をも殺せぬような女にどう接していいかが分からなかった。
貼り付けたような笑顔を見せるが、彼女の笑みはどことなく綺麗で、儚かった。
「今日は何を買われたのですか?」
「え?あー…夕食?友人に頼まれてさ」
「そうなんですね。何作るんですか?」
「作るっていうか缶詰とか、あとお酒」
「缶詰!?それじゃ栄養が足らないですよ」
「そう?便利じゃない?保存期間も長いしお腹にたまるなら何でもいいよ」
実にくだらない話だ。それなのに彼女は笑ったり驚いたり様々な表情を見せてくるから不思議と退屈しなかった。この場を去ろうとは思わなかった。