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「うっせーやんのかまつ毛野郎!」
「貴様こそ僕に勝てると思っているのか愚か者!」
「もーええっちゅうねんお前ら」
「ヒメコ。いつもの事だ気にするな」
思わず身を隠した。開盟学園の廊下で言い合いをしているのは生徒会副会長の椿佐助とスケット団というなんでも屋のボッスンこと藤崎佑助とヒメコこと鬼塚一愛とスイッチこと笛吹和義だ。
私はその開盟学園に通う平々凡々としたただの女の子。彼らはこの学校内では割と目立つ存在で、生徒会はもちろんのこと、スケット団というのは何かしらの問題を起こしたりするけれど、それでも困っている人がいたら迷わず助けて力になってくれると、とても良い人達ということで有名人にはなっている。
そんな彼らと私はほとんど関わることは無い。だから思わず隠れてしまったのも反射的にというもので、そして何より、平凡な私でも、一つ女の子としての問題を抱えてしまっている。
「あ、名前。私これから彼氏とデートだから先に帰るね〜」
「!あ、れんちゃん。うん、楽しんでね」
「ありがとう。また明日!」
「また明日ね、バイバイ」
廊下の階段前、隠れている中、友人が彼氏と一緒に階段を降りて帰っていく。
放課後になって、入学したての時はほとんど毎日遊んで帰っていたのに、2年になって慣れてくると友達はみんな彼氏を作ってしまっていた。そんな状況に少し私も恋愛してみたいなんて憧れを持つようになったけれど、自分が好きな人なんか出来るわけないって、思っていた。
そう、思っていたんだ。
だけど、
「全く、何度言えば分かるんだ!」
「お前の言葉は何にも聞こえませーん」
「おのれ…どこまで愚弄すれば気が済むんだ!」
声を聞けば胸がドクドクと高鳴っていく。恋をしてしまった。まさかと思っていたけれど、一度、私が夜の遅い時間、バイト終わりに帰宅している途中、悪い男に絡まれた時、軽い身のこなしで助けれくれた時だ。
「おいねーちゃん、今から俺と遊ばねぇ?」
「…い、急いでるので」
「いいじゃんかよ〜、遊ぼうぜ」
「は、離して!」
右腕に赤い生徒会の腕章をつけて、きっちりと制服を着こなし、そのシワひとつない綺麗な姿からは想像も出来ぬ軽やかな動きで男をいとも簡単にのしてしまった。
「男として恥を知れ愚か者め」
短い髪の毛、キリリとした目。私はその時、一瞬で心を奪われてしまった。
私が一方的に知っていても彼は数ある生徒の中の1人でしかない。だから、あれからずっと見ていても、話しかけることもどうすることもできないのだ。
寧ろ姿を見てしまうと恥ずかしくて顔も見れない。私ってこんなに恋愛に弱かったのだと自覚するを得ない。
彼氏ができた友達にも何度も相談しようと思ったけど、こんな私が学園の有名人に恋をするなんて笑われてしまいそうで誰にも言えない。
ただ、彼氏ができた友達がずっと前に言ってたおまじないというものを信じて見ることにした。この学校で流行った恋愛のおまじないだ。
今日、ボーッと授業を受けながら震える手で書いてみたのは、白い紙に好きな人の名前を書いて、それをハートで囲んで折りたたみ、肌身離さず持っておくというものなのだ。
だがしかし、放課後になっても私が帰らないのは、その紙を無くして探しているからだ。ちなみにその捜索中、この場面にあい、冒頭に登るのである。
「おい椿〜そろそろ会議が始まんぞ」
「おーおーさっさと行きやがれまつ毛バカ!」
「会長に免じで今日は引くが次はないからな!」
「ばーかばーか!」
遠のいていく足音と、先程まで騒がしかった廊下が途端に落ち着く。喧嘩は終わったのだろうか。とりあえず椿くんに会うことなくホッと胸を落ち着かせる。スケット団が部室に戻ったら捜索を再開しよう。
「やっと落ち着いたわ。ほら、あたしらも部室に戻んで」
「早く戻ってギャルゲーの続きをしなければ」
「そんなんいつでも出来るやろが」
「ったくあの野郎相変わらずムカつくなぁ」
「あんたが子供すぎんねん。顔合わせたら喧嘩ばっかしよってから。そんなんやとよその子にも迷惑かかるやろ!」
「お母さん!?お母さんなのねぇ?!」
「喧嘩するほど仲がいいんだよ母さん」
「お父さん?!お父さんなのねぇ?!」
スケット団だけでも段々と賑やかになっていく。仲良いなぁこの3人。いつも一緒にいるのを見かけるから少し羨ましい。
「あいつあんなに堅物だとぜってーモテねぇよ。恋愛なんかできねぇだろうな」
「確かに椿のこと好きになる子おるんかな」
「いささか同じタイプの超真面目堅物キャラか」
「あー超面倒くさそう。俺ら絶対やだわ」
「まぁ実際おらんやろう…し……ん?なんやこれ?」
部室に戻る途中、鬼塚一愛の足が止まる。
「なんだ?紙…?」
「紙だな。ゴミではなさそうだ」
「一応見てみるか。なんて書いてあんやろ……」
「………」
「………」
白い紙だが綺麗に折られているようだからヒメコがペラリと捲る。覗き込む2人も思わず顔がフリーズしてしまった。
「これ…これって…」
「まさか……」
「そのまさかだな」
椿佐助の文字にハートマークで囲んである。完全にこれは好意がある人のものだ。
「ま、!!!まって…!!!!」
スケット団の声に体が動いていた。全力で走ってヒメコが持っている紙を両手で抑えて文字を隠した。
「み、…見ました…か…」
「…おう。すまん…」