眺めるだけでよかったのに

「あ、あの…それ、燃えるゴミじゃないです…」
「あ”?」

体育祭から一躍有名になった人がいる。
もちろん入学してから校内では名前は知っていて、その人だけではなくヒーロー科の生徒は何かと目立っていたけれど、体育祭の選手宣誓ならぬ宣戦布告を成し遂げた男の子─爆豪勝己くん。
ただの普通科に生徒である私はいつも眺めているだけだったけれど、どういうわけか爆豪くんそのつり上がった瞳で私を見ていた。


「ご、ごめんなさい…でも分別が…」


震える指で指した私を追って見たそこは分別はきちんとしようの張り紙が。彼はちっと舌打ちしてそれに少し怯えた。

「あの、…なにか悩み事でもありましたか?」
「あ?」
「ひっ、ごめんなさい出過ぎた真似を…」



あの、じゃぁこれここに置いといてくれたら大丈夫ですから!少し怖くなってその場で帰ってしまった。だけどあの自信過剰な爆豪くんの少し悩んだような顔が忘れられなかった。
ヒーロー科は忙しいみたいで、座学はもちろんの事だけど屋外で実技の授業や課外に出動することも多い。ずっと学校に篭って文字と向き合ってる平凡な私とは全く違うから学校でも接点なんて無いに等しい。

「最近ヒーロー科って何かあったか知ってる…?」
「え?あー、なんかA組の生徒が喧嘩したんだってさ。たぶん不良みたいな人じゃない?」
「あー体育祭で縛られてた人?」

でも目立つだけあって情報はすぐに回る。そして個性的な人が多いから特徴だけでだいたい誰か分かってしまう。

「謹慎処分らしいよ」
「ヒーロー目指すのに喧嘩なんてしていいの?怖」
「今年のヒーロー科治安悪いよね。名前も関わらない方がいいよ。内申点響くから」
「うん…」


喧嘩。確かに昨日の爆豪くん少し傷があった。年頃の男の子なら喧嘩の一つや二つあるだろうけどやっぱり不良なのだろうか。
夕刻、再び私もゴミ捨て場にゴミ袋を持ってきたところ、そこに居たのは緑色の髪の男の子。この子も体育祭で目立ってた子。

「あ、こ、こんにちは!」
「…こんにちは」

顔に傷がある。爆豪くんと緑谷くんが喧嘩したんだと1人で納得した。

「えっと…」
「あ、ごめんなさい。私当番だから学校設備とか確認しないといけなくて」
「そ、そうなんだ」

「でも、その…爆豪くんが間違えるとは思わないし…少し、思い詰めた顔してた…気がして…」
「……」

黙ってしまった爆豪くん。やっぱりどうでもいい人にこんなこと言われても困るよね。うるせぇ黙れ。引っ込んでろ。彼がよく口にする暴言を吐かれるだろうと思っていたけれど、私から目を逸らしてゴミ袋を移動させながら口を開いた。

「…お前は」
「…?」
「っ、なんでもねーよ!!これでいいか!!」
「あ、は、はい!ありがとう!」

普段通りに大きな声で定位置のゴミ袋を置き直してくれた爆豪くん。暑くなってきたため少し薄着のタンクトップから見える鍛え上げられた腕を見て私は何故だか爆豪くんの自信過剰なところも影ならぬ努力が垣間見えてしまったのだと思う。

「ば、爆豪くん!」

ずんずんと寮に戻る爆豪くんの背中は逞しい。でも、今はほんのちょっとだけその自信が消えてしまっている気がした。彼がさっき何を言おうとしたのかは分からないけれど、こうしてゴミ袋も直してくれて悪態つきながらも常識のある行動をしてくれる。本当は優しい人な気がするのだ。

「あの、…何があったか分からないけど、爆豪くん」

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