あなたの小指に繋がれるだけの人生であっても構わない。
少しつんとした薬品の匂いと白に包まれた病院に今日も彼は足を運んでいて私はその背中を見つめるだけだった。
雄英高校のヒーロー科1年生にしてプロヒーローの息子と知ったのは体育祭だったけれど、その一件から目立つ風貌で母親の病室に足を運ぶことが多くなった。
同じ学校に通う私はただ声をかけるわけでもなくそれを見かけて家族想いの良い人だなと思っていただけだった。
「隣、いいか?」
それなのに。んぐっ、と声にならない声が出て隣を見上げるとおぼんを持った轟くんが私を見ていた。いつもはお弁当で教室でお昼を食べるけれど今日はたまたま仲のいい友達が休みでいなかったので食堂へ足を運んだ。なるべく人目のつかない端のテーブルの席で大人しくハンバーグ定食を食べていただけなのに。
他の席空いてなかったのかな。いや、軽く見た感じ空いてるっぽいけど…どうして。
何も返事をしない私に轟くんは少し首を傾げた。
「もしかして先約いたか?」
「い、いえ!空いてます!どうぞ」
何故だか眉を下げて言われたので慌てて首を縦に振った。
無意識だろうか。顔がいいから恐ろしくときめいた。
「ありがとう」
そう言っておぼんをテーブルに置いて椅子に座る轟くん。お昼は蕎麦みたいだ。つゆにつけて静かにすする轟くんを横目で見ていた。蕎麦啜ってる。可愛い。
「蕎麦、いるか?」
「え」
私の視線に気付いたのか、つゆのお皿を差し出してきた轟くん。
「い、いいよ。ごめんね、蕎麦好きなんだと思って…」
「そういうお前はハンバーグ好きなのか」
「うん。チーズ入ってて美味しくて」
「そうか。俺も今度頼んでみる」
残り少ない私のゴハンを見て轟くんはそう言った。
少し轟くんが優しい顔をして見つめていた気がした。
それからだ。何故か轟くんと接点を持つようになったのは。不思議と何かと轟くんと会うことが多くなった。廊下でのすれ違いや寮生活になってからは登下校の時に顔を合わすようになり、私が掃除当番になった時は手伝ってくれたりする。ただの普通科の私に轟くんが話しかけるのでさえ友人を含めてクラスの人たちからは質問攻めにあった。私だってどうしてここまで関わるようになったのか分からない。
1番会うことが多いのは、病院でだけれど。
ヒーロー狩り。学校の帰りに緑谷くん達が遭遇して怪我を負ったと聞いて、病室を尋ねた。その中には轟くんも顔にガーゼを貼って痛痛しく見えた。
「君は…」
緑谷くんが私を見た後何故か轟くんに視線をやった。轟くんはじっと私を見ていた。
「この子もあんた達の手当てを手伝ってくれたんだよ。じゃ、後は体調を見て報告してくれ」
「あ、はい」
リカバリーガールがそう言って去っていった後、私は手に持っていたバインダーと共に緑谷くん達に近寄った。
「君が手当てしてくれたの?」
「うん。みんな傷だらけでびっくりしました」
緑谷くんから少し手をとって血圧を図る。
「他に痛みはありますか?」
「えと、…腕が少し」
バインダーに書き込みながら飯田くんの様子もみる。
「慣れているようだが、医療知識に詳しいのか?」
「えと…まぁ」
最後に轟くんに近寄ると、彼は黙って腕を差し出した。
「手当て、してくれたのか」
「うん」
「そうか」
「…」
「お前は、良い医者になると思う」
「…え」
「違ったか?」
「医者目指してるの?」
「え、なんで…」
「いつも病院いただろ。それに、俺の母親のことも診てくれてたんじゃないのか」
「…知ってたんですか」
「ああ」
「…」
「ありがとな」
轟くんは笑ってお礼を言ってくれた。その言葉に心がじんわり温かくなる。優しい、優しい人だ。