少しだけ、距離が空いてしまってから数日。

(……会いたいな)

気づけば、足はまたあのCDショップへ向かっていた。

理由なんて、分かってる。

会えないかもしれないのに、
それでも来てしまうくらいには――

「……っ」

店内に入った瞬間、

見慣れた後ろ姿が目に入る。

(……いた)

胸が、ぎゅっとなる。

でも――

(どうしよう)

前みたいに、自然に声をかけられない。

少し離れた場所で、立ち止まってしまう。



「……李灯?」

振り返った彼と、目が合う。

「あ……」

「やっぱり!来てたんだ!」

嬉しそうに駆け寄ってくる
朱雀野アレン。

その顔を見た瞬間、

(……あ、だめだ)

やっぱり、好きだと思ってしまう。

「久しぶり、だね」

「そんなでもないだろ?……でも、なんか久しぶりな気する」

少し照れたように笑う彼に、胸がじんわり温かくなる。

「……最近、忙しかった?」

「まぁ、ライブの準備とか色々な」

「そっか」

「李灯は?」

「いつも通り、仕事」

当たり障りのない会話。

でも、その“普通”が、少しだけ遠い。



「……あのさ」

ふいに、アレンが口を開く。

「この前、ごめん」

「え?」

「なんか、変な空気にしちまって」

視線を少し逸らしながら言うその姿に、

(……気にしてたんだ)

胸が、きゅっとなる。

「ううん、大丈夫だよ」

「ほんとに?」

「うん」

小さく頷く。

本当は大丈夫じゃないけど、
それを言う勇気はない。



沈黙が落ちる。

でも、嫌な沈黙じゃなくて――
何かを探しているような時間。

(……このままじゃ、だめだ)

会えなくなるのは、嫌。

でも、踏み込みすぎるのも怖い。

(でも……)

ぎゅっと、手を握る。

(少しだけなら)

勇気を、出す。

「……ねぇ、アレンくん」

「ん?」

「もし、よかったらなんだけど」

心臓が、うるさいくらい鳴る。

「連絡先、交換しない?」

「……え」

一瞬、空気が止まる。

(……やっぱり、迷惑だったかな)

不安が一気に押し寄せる。

「ごめん、急に――」

「いや、違う!」

食い気味に返されて、びくっとする。

「嫌とかじゃなくて、むしろ……!」

言いかけて、止まるアレン。

耳が少し赤い。

「……俺でいいのか?」

「え?」

思ってもみなかった言葉に、目を瞬く。

「いや、その……」

少しだけ言いにくそうにして、

「李灯、ちゃんとしてるしさ」

「……?」

「俺、まだ学生だし、音楽ばっかだし」

「……うん」

「なんか、その……」

言葉を探すように視線を泳がせて、

「もっとちゃんとしたやつの方がいいんじゃねぇかなって」

「……っ」

その言葉に、胸がぎゅっと締め付けられる。

(なんでそんなこと言うの)

「……アレンくんがいいよ」

気づけば、そう言っていた。

「え」

「連絡取りたいって思ったの、アレンくんだから」

少しだけ目を逸らして、

「……迷惑?」

小さく聞く。

すると――

「迷惑なわけねぇだろ!」

即答だった。

少しだけ驚く。

「むしろ、めちゃくちゃ嬉しい」

照れたように笑うその顔に、

胸の奥が、じんわり熱くなる。

「……じゃあ、交換しよ」

「うん」

スマホを取り出す手が、少し震える。

画面越しに、名前が登録される。

“李灯”

“アレン”

たったそれだけなのに――

(……繋がった)

そんな気がした。



「……あのさ」

「ん?」

「これで、店以外でも話せるな」

少しだけ嬉しそうに言うアレン。

「……そうだね」

自然と、笑みがこぼれる。

でも――

(これ以上、期待しちゃだめ)

(ただの連絡先だから)

同じことを、きっとアレンも思ってる。



(これでいい)

(でも――)

(もっと、話したい)



まだ、名前を呼ぶだけの距離。

でも確実に、一歩進んだ関係。

それが、こんなにも嬉しくて。

そして、少しだけ――

怖かった。

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