連絡先を交換した、その日の夜。

スマホの画面を、何度も開いては閉じる。

(……送るべき?)

“おつかれさま”
“今日はありがとう”

たったそれだけでいいのに。

(重くないかな)
(迷惑じゃないかな)

考えれば考えるほど、指が止まる。



同じ頃――

「……は?」

ベッドの上でスマホを見つめる
朱雀野アレン。

(送った方がいいよな、普通)

でも――

(いや、でも社会人だし、疲れてるかもしんねぇし)

(俺から送っていいのか……?)

メッセージ画面を開いては閉じて、を繰り返す。

「……なにやってんだ俺」

ステージでは迷わないのに、

たった一通が、こんなにも難しい。



――そのとき。

ピコン

通知音が鳴る。

「……っ!」

反射的にスマホを掴む。

画面には、

“李灯”

一瞬、息が止まる。



『今日はありがとう☺️
久しぶりに会えて嬉しかった』

たったそれだけの一文。

なのに、

「……っ、はぁ……」

力が抜ける。

(よかった……)

自分だけじゃなかった。

そう思えたことが、こんなに嬉しい。



一方で、送った側の李灯は――

(送っちゃった……)

ベッドに顔をうずめる。

(返信、来るかな)

(重かったかな)

既読がつくまでの時間が、やけに長く感じる。



既読

「……っ」

心臓が跳ねる。

でも、返信は来ない。

(あれ……)

(やっぱり、忙しい?)

(それとも……困ってる?)

どんどん不安が膨らんでいく。



「やべ、なんて返せばいいんだ……」

アレンは本気で悩んでいた。

(嬉しいって、どう言えばいい)

(軽すぎても嫌だし、重すぎるのも違うし)

(てか、“嬉しかった”って……)

その一文を何度も見返す。

顔が少し熱くなる。

(俺も、めちゃくちゃ嬉しかった)

でも、そのままは送れない。



数分後。

『こちらこそありがとな!
俺も会えて嬉しかった!』

送信。



ピコン

「……っ!」

すぐに画面を見る李灯。

(返ってきた……)

『俺も会えて嬉しかった』

その一文を見た瞬間、

「……よかった」

小さく、息がこぼれる。



それから――

『今何してるの?』

送るか、迷う。

(いや、いきなりは……)

(でも、もう少し話したい)

指が止まる。



同じ頃、

(もう一通送っていいか……?)

と悩むアレン。

(いや、しつこいか?)

(でも、終わりたくねぇ)



――同時に。

ピコン

二人とも、ほぼ同時に送ってしまう。



『まだ起きてる?』

『今、何してる?』



「「……あ」」

同じタイミングで届いたメッセージに、思わず固まる。

そして、少しだけ笑ってしまう。



『起きてるよ』

『家でゆっくりしてた』

やり取りが、少しずつ続いていく。

たわいない会話。

音楽の話、仕事の話、今日のこと。

でも――

(……楽しい)

同じ気持ちが、画面越しに伝わる。



それなのに。

『明日も早いから、そろそろ寝るね』

送信したあと、少しだけ寂しくなる李灯。



『そっか、おやすみ!無理すんなよ!』

返しながら、もっと話したいと思うアレン。



(もう少し話したかった)

(でも、引き止められない)



(もっと話したい)

(でも、迷惑かもしれない)



同じことを思いながら、

「おやすみ」で終わる関係。



でも、

(また明日も、話せる)

(また連絡してもいい)

たったそれだけで、

少しだけ世界が明るくなる。



“好き”なんて言えないまま。

でも確実に、心の距離は近づいていく。

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