タイトル

「…あ」


突如声を上げた桜に全員が手を止めて桜を見た。
喫茶ポトフで腹を満たしていたボウフウリンの桜達。先程まで喧嘩をして帰ってきたので、桜は顔も制服も既にボロボロだった。


「どうしたんですか桜さん」
「…いや、服が、」


好物のオムライスを食べるスプーンを持つ右手の裾部分の刺繍がとれかけていて数本糸も絡まっている。これでは手も動かしにくいだろう。オムライスが食べずらそうで桜は苦い顔をしていた。


「喧嘩で破けちゃったのかな」
「桜くん派手に動いてたもんねぇ」
「よく見たらボタンも無いじゃない。まだおろしたてなのに勿体ない」



蘇芳や桐生達に笑われてそっぽを向く桜。お皿を拭いていた琴葉もため息をついた。


「ったく。その制服はボウフウリンの看板なんだから大事にしなさいよ。早く名前さんの所に行って直してもらいな」
「…あ?」


聞き慣れない名前を聞いて不思議な顔をする桜。
楡井がすかさずマル秘ノートを開いて助け舟を出す。


「名前さんはこの商店街の仕立て屋さんをやってる方です。ボウフウリンの制服も作ってくれてるんですよ!優しくて素敵な方です!」
「…へぇ」
「みんな喧嘩してボロボロになった服とかいつも直してくれるんだ」
「俺は特注してサイズ大きめにしてもろてん!筋肉は日々進化し続けるからな!」
「名前ちゃんね〜俺もよく服買いに行くんだ〜可愛いし〜、でもデート誘っても忙しくて中々付き合ってくれないんだよねぇ。ま、メッセージするからいいんだけど」
「で…!!?!」


目をキラキラさせて語る楡井にあまり興味無さそうに返答した後は蘇芳や桐生達も楽しそうに話題を続ける。それだけでその人がどれだけ慕われているのかが良く分かった。


「いい!?くれぐれも失礼な態度とるんじゃないわよ!それから名前さんが心配するからその血だらけの服もちゃんと洗濯してから持っていきな!」


何故か琴葉には叱られ混じりの念押しもされてその仕立て屋へ向かっている。


「なんでテメーらまでいんだよ…」
「えぇ!?だって桜さん場所分からないじゃないですか!それに僕も名前さんに会いたいですし!」
「俺も同じだよ」


いつもの楡井と蘇枋までついてきているので複雑な気持ちになりながら案内を頼む。


「ここです!」

楡井が刺したお店。そこまで遠くない場所にあったのは、少し趣のあるこじんまりしたお店だった。商店街の店に連なって並ぶ色褪せた看板と木目調の建物。


「こんにちは!名前さん!」


慣れたように声をかけた楡井に続いて中に入れば、あまり人の気配はなく、マネキンや服、帽子、生地や糸など、仕立て屋と言われれば納得の品揃えだった。

奥の方からカタカタとミシンの音がなり止んで、足音が近づく。


「いらっしゃいませ…、あ、楡井くん。こんにちは」


顔を出したのは、桜の想像より全く予想外の人物だった。制服を作る仕立て屋というから、申し訳ないが年配の老人で、琴葉も失礼ないように!と念押しするから気難しい人かと思っていたが。

出てきたのは自分とさほど変わらない若い女で、大人びた雰囲気もあるが綺麗な笑顔を浮かべた人だった。


「蘇枋くんも来てくれたんだ。珍しいね」
「はい。お久しぶりです」
「ふふ、そんなに経ってないよ…あれ、その子は?」
「…!」


じっと見ていたのに気付いたのかパチリと目が合って反射的に驚く。


「桜さんです!最近こっちに来たんですよ!」
「あぁ、あなたが…」
「…っ、んだよ…」


今度は彼女が桜をじっと見つめる。桜の顔には喧嘩で残った傷が少しあって、何を思ったのかそっとその傷を覆う絆創膏を撫でた。


「っ…、?!?、?!」
「この街を守ってくれてありがとう。桜くん、これからもよろしくね」


ふわりと笑った彼女に顔が熱くなって目を逸らした。それに楡井と蘇枋はいつもの事だと笑う。


「あぁ、桜くんはこういうのに耐性がないから気にしないでください」
「はい。照れてるだけですから」
「うるせぇ!」


わちゃわちゃする3人にくすりと笑みがこぼれる。仲良いなぁ。


「それで、今日はどうしたの?」
「あ、そうですよ!桜さん、本題が」
「…あ、えと、」


持ってきた制服を差し出す。


「破けちゃったみたいで、名前さんに直していただければと…」


受け取った制服を見て少し悲しそうにした表情を桜は見逃さなかった。それもそうだ。せっかく作ったのにこんなにボロボロにされては。


「…悪ぃ。あんたがせっかく作ったのに…こんなにしちまって、」


気まずそうに呟いた桜にはっとする。


「!…ううん、大丈夫だよ。服はすぐ直るから。少し時間もらうね。桜くん達はゆっくりしてて」


そう言って彼女は中に入っていった。
桜達は近くにあったソファと椅子に座る。

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