今日は女子バスケ部とコートを分け合うことになっていた。体育館の半分を仕切った網の向こうで鈍い音が聞こえた。振り向くと尻餅ついて顔を抑える立木ちゃんと、バウンドしてコートを転がっていくバスケットボール。顔面キャッチなんて珍しい。他の部員たちが彼女の周りに集まって心配そうにしている中、未だに顔を上げない彼女に俺も気になって目が離せなかった…。
「うわぁ、痛そう…」
休憩へと向かう国見ちゃんの声で我に返った。
バスケットボールってバレーボールより幾分も固いし重いよね。立木ちゃんは大丈夫かな…。という思考が脳内を占める。
「なに見てんだ」
「立木ちゃんが、ボール顔面キャッチしたみたいでさ」
「ああ、どうりで動かないんだな」
「大丈夫かな」
「大丈夫だろ、お前はお前の部活をしろクソ川」
「ひっどいな〜。心配じゃないわけ?鬼!身内のくせに!」
「死にゃしねえだろ」
岩ちゃんとの言い合いの合間に立木ちゃんは保健室に連れて行かれたみたいで、その後の練習に姿はなかった。
部活が終わってコートの向かいの女子に立木ちゃんの行方を教えて貰って、今保健室の前にいる。
もともと体調が良くなかったらしく、そのまま保健室で寝てろと命令されたんだとか。岩ちゃんも頑固な方だけど立木ちゃんも頑固でよく無理しがちだよなあ。
「立木ちゃーん、及川さんがお見舞いに来ましたよー」
いつもなら、挨拶くらいしてくれるのに返事がなく帰ったのかととりあえずベッドを仕切るカーテンを軽く開くとそこには枕に顔を埋めて丸くなって寝てる立木ちゃんが居て、なんだか猫みたいで可愛くて口もとが緩んでしまう。
「立木ちゃん、寝てる?」
ベッドに腰を下ろしてみるけど反応なし、枕さえなけりゃあ寝顔も見れるのに…残念。なんて。
余りにも反応がないんで、今ならやりたい放題この機会を逃す術はないと頭を撫ぜる。
思っていたよりも柔らかい髪をしていて癖っ毛の割にサラリとした指触りは心地よく感じる。
なんか面白くなっちゃって猫を撫で続けるようにそのまま撫でてたら立木ちゃんのくぐもった声がして、手を止めた。
「起きた?」
「…」
半分だけ見える顔がこちらを軽くにらんでくる。
数秒目があって、漸く現状を理解した立木ちゃんが口を開く。寝起きが悪いと聞いてはいたけどまさか睨まれるとは思ってなくて少しだけ固まってしまったのは秘密だけど。
「なにしてるんですか」
「お見舞い。顔面キャッチ凄かったね」
「もういいですそのことは、」
「珍しく落ち込んでる?」
「…まあ、多少は。部活終わったんですよね、私も帰ります。」
「体調悪いんでしょ?送ってくよ?」
不機嫌そうに振り向いた彼女が乗り気じゃないとでも言いたげな顔で頷く。そういう人の好意を無下にできないところかわいいなって思うよ。
家につくまでに一回くらい笑わせてやろうと決めて保健室を出る。いつもより足の遅い立木ちゃんの横に並んでたくさん話をするんだ。
「立木ちゃんはさ、」
「なんですか」
「なんでもない」
「なにそれ」
終
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