「先輩?」
「なーに」
「卒業証書落ちてますけど」
「要る?」
「要るわけないでしょ」
「だよねー、ただの紙だもん」
及川さんはかったるそうに転がってるようにそれを見つめて目を逸らした。
私は図書室委員で、今日は鍵を任されてしまったことでこんな時間まで残っている。
部活はないし、引き受けたのはいいが先輩が長居をして帰ろうにも帰れない状況が続く。「もらっていいよ、それ」と指をさした先に転がっていたのは卒業証書だ。
せっかく今日卒業したのに、この人はいつまでここに居るのだろう。
「要りませんよ…。他の先輩たちはもう帰りましたよね、及川先輩は帰らないんですか」
「…立木ちゃんが帰るなら一緒に帰ろうかな〜。」
「…何言ってるんですか」
「ちぇっ」
こんな時間まで残っても何もすることなんてないのに、及川先輩が何をしたいのかわからない。
卒業式が終わって他の先輩たちはすぐに帰っていったし、他の先輩たちも各々部活やお世話になった先生に挨拶やら何やらして帰って行ったというのに。
そんなこんなで何をするでもなく時間ばかり過ぎていって、校舎から出なければならない時間になってしまった。
及川先輩は相変わらず不貞腐れたような、つまらなそうな顔をしている。
不貞腐れたいのは私の方だろ。こっちはギリギリまで付き合わされてんだ。
「立木ちゃんは帰らないの?」
「…私はずっと及川先輩が帰るの、待ってるんですけど…」
「え!じゃあ一緒に帰ろうよ」
「…それ以外択あります?」
急に明るく笑みを浮かべた先輩が立ち上がる。
彼が何を考えてるのか私にはまったくわからない。いやがらせか。
帰り道でも先輩は楽しそうにしていて、図書室にいたときのつまらなさそうな雰囲気はどこにいってしまったのやらと右から左へ聴き流す。一兄と変えればいいのに。部活でも追い出し会とかなんとかそんなのがあったはずだろうに。と不思議に思うくらいだ。
私より背の高い先輩と私の影が並ぶ。
「何が楽しいやら」
「ん、今日はたくさん立木ちゃんと居られたからかな〜、一緒に帰れたし」
「はあ…」
「えー…反応なし?つまんない」
振り向いた先輩が口をとがらせる。
いったい私にどんな反応を求めていたのか…。前を向いた先輩はなおもニコニコと楽しげに足を進める。
私はと言え広く大きな先輩の背中を眺めて歩く。
「ねえ、卒業しちゃったけどさあ…」
「はい」
「たまには立木ちゃんに会いに来ていいかな」
「いやですけど」
「…えぇ!?」
真っ先に返事を返した私に思い切り振り返る。
まさか「会いにきてほしいです」なんて言うとでも思ったのか。 どーせ、進学先で部活に熱中して来ないのは目に見えている。そういう男だ。
「立木ちゃんの進学先は青城?」
「まあ、今のところその予定です。不便ないですし」
私の返事ににこにこと笑う。別に高校にあがったからって一緒にいることになるわけじゃあるまいし何を考えてるやら、そもそも私たちは付き合ってもないだから…どうだっていいのに。
「俺に会いに青城来るの?」
「話聞いてました?」
「俺、期待しちゃおっかな〜」
「会話しませんか?」
よくわからないことを言う及川先輩に少しだけイラッとくる。
「手、繋いで帰らない?」
「いいわけないでしょ」
「ちぇ、ざーんねんっ」
終
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