与えられたもの -アルリオ(鋼錬

与えられたもの




「リオは、身体を取り戻したいと思わないの?」


本を読んでいた少女、リオ・ネルソンは大きな鎧が発した言葉に意識を本からそれに移した。
その大きな鎧の中は今、空だ。何もないのだ。
人が入っていると周りの人は思い込んでいるからこそ、この無人の鎧はこうして人の中に紛れ込むことができている。

リオは読んでいたページに適当に紙を挟み本閉じた。立ち上がり床に座って己を見上げる鎧に近づく。
何も身につけていない彼女の足が、床につくたび生身の人からは聞こえないであろう音が聞こえる。
彼女もまた鎧と同じく、とは言えないが身体に事情を抱える身だ。


「アルフォンスは、元の身体に戻りたいんだっけ」

「うん。それが目的で旅をしているしね」

「エドワードは、手と足」

「うん、そうだね。兄さんの手足も早く元に戻してあげたいよ」


アルフォンスと呼ばれた鎧が穏やかに答える。
彼の発する声は、その厳つい鎧の中に入っているであろうと想像する人物とは程遠く、声変わりの訪れていない少年の声だ。

アルフォンスの前でリオは屈む。
幼い子供と視線を合わせるように屈んでも、大きな鎧より、幾らか小さくなってしまう。
リオはアルフォンスの胸あたりを軽く、小突いた。
空洞の鎧らしく、その音は篭りそして消える。
この鎧の中に何もないことを認識させる。

先ほどまで見上げていた彼女を、アルフォンスは見下ろす。
表情のない鎧からは、どんな感情を抱いているのか検討は付かなかった。


「私は、君らとは違うんだ。」

「違うって?」

「失って、代わりにこれを付けてるんじゃなくて、元々与えられなかったモノを手に入れたんだ。」

「元々与えられなかった…」

「アルフォンスたちとは逆だな?」


リオはアルフォンスを、見上げて笑う。


「私が人体錬成に興味を持ったのは、与えられなかったものを自分で作ろうと思ったからだ。」

「それが禁忌だとしても?」

「やめたさ、だけどその代わりとてもかけがえのないものをくれた。」

「かけがえのないもの?」

「手入れは面倒だけど、生身のものより何倍も頑丈な足。それを、きっかけにウィンリィやロックベルのばっちゃんに出会えた。そして旅をしてたくさんの人に出会ってたくさん闘って強さも手に入れた。色んな人の優しさにも触れた。」


優しい表情を浮かべるリオを、アルフォンスはじっと見つめる。
幼い頃、まだ自分が身体を失ってなかった頃をアルフォンスも思い出していた。

初めて見た自分たちと同じ年頃の子がつける機械鎧。
覗いているのがバレて追い出されたけど、部屋から聞こえる女の子の叫ぶ声はよく覚えてる。


「それに、こうやってアルフォンスたちに会えた。私に元から足があったら、あり得なかった世界だ。神様には感謝だな。」

「リオは神様がいると信じてるの?」


興味深そうに、アルフォンスは声をだした。
錬金術師は神様を信じていない人がほとんどで、アルフォンスもまたそうであるし、何より神という不確かなものを信じる錬金術師と出会ったことはなかった。


「信じる信じないは自由だしな。私の両親は神を信じてるよ。私居るんじゃないのとは思ってる。」

「錬金術師は科学者だろ?」

「科学じゃ説明できないこともあるさ。たぶんな。あれもこれも理屈や方程式に当てはめるより少しくらいそういうことがあった方が、世界は綺麗に見えるんだよ。」

「へえ….よくわかんないけど、そういうこともあるのかな」

「固っ苦しい世界じゃ息が詰まるだろ?」


リオはにっかりと笑う。


「神様が君の足を奪い、別の形でそれを与えた。そういうこと?」

「ん。そしてお前たちとの出会いを与えた。人と人との出会いは、確率で奇跡は表せても、それじゃあ味気ない。神に与えられた運命であり、奇跡だ。その方が人との出会いを大切にできる気がするよ、私は。」

「なら、僕もそこだけは信じようかな」

「中途半端だな。まあ私も居ると思うよって口にするだけで信仰心もなければ教会なんか行かないけどな」


話もオチがついたというところで、ぐぅとリオの腹が鳴った。
それが可笑しくてまた二人は笑う。
時計の針は1時25分を指している。

立ち上がったリオに続いてアルフォンスも腰をあげる。
朝から出かけていったエドワードも、そろそろ一度帰ってくる頃だろう。


「ご飯、食べに行くかアル」

「僕は食べられないけどね」

「帰ってこないエドワードくんは置いていってしまえ。」

「もー、リオってば」


外に出て行ったリオをアルフォンスが追う。
先を歩く彼女の足並みは、いつも軽い。





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