軽い命の話

軽い命の話




怖いんだ。
そういって俯く乙骨くんがひどく惨めに思えたのを覚えてる。初めて会った時のあまりの自信のなさにこんなひ弱そうな奴が特級…?なんて思ったりしたこともよく覚えてる。
そんな彼が顔を上げて前を見て、特訓を経験を重ねて少しずつ力を蓄えていく様子をずっと見守っていたのは私だろう。たぶん誰よりも近くで。



「莉皇ちゃ〜んお願いがあるんだけど」
「断りたい。」
「まだ何も言ってないのに断れないことをわかってるなんて、さすが伊地知の認める補助監督候補!」



そんな煽りたっぷりの会話で、私は乙骨憂太の面倒を見ることになった。補助監督として、呪術界の先輩として。
最初の任務は棘のサポート。その次は真希との任務。その次…その次と簡単な仕事を重ねて経験を積ませていけとのことで、サポートも兼ねていくつかの任務に付き添った。


「弱くてごめん…」

「怖いのは当然だろ、あんな気持ち悪いもん」


腕に怪我を負った彼の手当てをしていると頭上から重たい空気で発せられた言葉が降ってくる。
手を止めて見上げると今にも泣き出しそうな顔の乙骨くんがこっちを見ていた。
恐らく、彼を庇って私が一度死んでしまったからだろう。怖い、と言ったのも樹齢の方ではきっとないんだろう。呪いのせいで死なないとは言え、仲間が自分のせいで死んでいたかもしれないという事実は消えない。心労は酷いに決まってる…。


「僕が、使えないから…」

「…返す言葉もございません」

「…ほんとにごめんなさい…」

「…最初はそんなもんだろ。失敗できるうちにできる限りの失敗を積んでおく方がいいし…」

「うっ……やっぱ足を引っ張ってるよね」

「ごめん、別に責めてるわけじゃなくて…」

「うん、わかってる…。立木くんもやっぱり失敗とかしたの?」

「わたしは考え得る限りの失敗という失敗はしたと思うよ…」

「そ、そうなんだ…」

「思い返すのは嫌だけど…だからこそ人に教えることができるんだよ。私の場合はちょっと特殊ではあるけど…無茶ができるから」

「あ…、だから五条先生…」


じゃあ、甘えられるうちに立木くんにたくさん頼るね。と申し訳なさが含まれた人畜無害そうな笑顔を向けられる。
お手柔らかに。と返して立ち上がる。
手当も終わったし、任務も終わったし、あとは帰って報告書諸々…とこの後のことを考えると気分は良くない。
今回補助監督を担当してくれた伊地知さんを待たせている場所へと歩き出す。
数歩後ろをしょんぼりと縮こまってついてくる彼の気配になんだかこっちまで落ち込んでくる…。


「乙骨くん今色々落ち込んでるでしょ」

「う、うん」

「サポートを任された以上、私は乙骨くんが死んでしまわないように助けるし、しばらくのうちは絶対に守るよ。」

「うん…」

「たぶん、守るために庇ったり囮になったりで何度も死ぬと思う。でも、それによって乙骨くんの中に募っていく罪悪感、後悔、痛みその他諸々から守って上げることはできないから覚悟してて。」

「っ…」

「これからたくさんそういう場面に出くわすと思う。誰かを助けられなかったり、誰かに一生残る傷を負わせてしまったり、仲間が死んだり…」

「うん」

「それに対して割り切って考えられるようにしないとそのうち自分自身が壊れることになる。少しでもいいからその感情との自分なりの付き合い方考えたらいいよ。それに…この先他の誰かが傷つくたびに落ち込んで鼻水垂らしてたらそれこそ役に立たないからね」

「は、鼻水は垂らしてないよ…!」

「泣くの我慢してるくせに」

「が、がんばり、ます…」

「よろしい!まあ、私もまだ全然向き合えてないんだけどね…こればっかりは難しいし。」

「慣れてしまうのも、怖いね…」

「うん。誰かが死ぬことに慣れるのは怖い。人の命は軽くはないかもしれないけど平等じゃない。」


平等じゃないから、弱い奴は見捨てられる。乙骨くんはこれから捨てられない側の人間になるだろう。そして私は、きっとどちらかと言うと捨てられる側の人間だ。この呪いも含めて、いいように利用されるだろう。今のように、今までのように。


「だから私はこうやって私の呪いを利用される。」

「…!」

「だから私は1人で動けるように二級を取ったし、今は補助監督を志望してる。捨てられたとき自己判断で動けるようにね。結果今良いように利用されてるけどね。」


肩を叩いて言葉を終わらせる。
私たちの姿が見えて軽く手を振っている伊地知さんに合図をして帳を解除してもらう。
必要な情報を話し終えて車に乗り込む。今日の任務は終わりだ。

隣でぐっと手を握る彼の姿を横目に、目を閉じた。
私の命は軽い。それで良い。変に期待されるくらいならそれでいい。





終。

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